6.食い違い
ギルドへの報告は、淡々と終わった。
東の大森林で見たこと。
発掘地点が空になっていたこと。
戦闘の痕跡がなく、組織的に“持ち去られた”形跡があったこと。
そして、正体不明の気配を感じたが、交戦には至らなかったこと。
レイは事実だけを述べた。
余計な推測は口にしない。
報告を受けたギルドの担当者は、書類に目を落としたまま頷く。
「……分かりました。
今回の依頼は、これで完了とします」
それだけだった。
「追加の調査は?」
ブロムが尋ねる。
担当者は、ほんの一瞬だけ視線を上げ、すぐに逸らした。
「現時点では、ありません。
この件は――上で扱います」
その言い方が、引っかかった。
知らない、という態度ではない。
むしろ、知っているが、これ以上は言えないという空気。
ギルドを出たあと、カイが小さく息を吐いた。
「……あれ、何か隠してたよな」
「ええ」
フィーネも同意する。
「私たちの報告を、驚きもしなかった」
「想定内、って顔だったな」
ブロムが低く唸る。
レイは何も言わなかった。
だが、胸の奥に、重たいものが残っている。
その日の夕方、今度は聖堂から声がかかった。
ラグナールの中央聖堂。
以前から何度か依頼を受けていた場所だ。
大森林の調査も、表向きはギルド経由だったが、実際には聖堂が気にかけ、裏で打診してきた案件だった。
応接室で待っていたのは、顔なじみの司祭――ルシオ・エヴァンス。
「無事で何よりです」
穏やかな笑みを浮かべ、軽く胸に手を当てる。
「大森林の調査、ありがとうございました。
あの場所は……聖堂としても、以前から注意していた地域でしたから」
そう前置きしてから、改めてレイたちを見る。
「ギルドを通した形にはなっていましたが、
元をたどれば、私どもが依頼を出したものです。
危険が増しているという報告が、いくつか届いていました」
丁寧な口調。
だが、その言葉の端々に、単なる巡回以上の意味が滲んでいる。
「魔王軍は、各地の古代遺物を狙い、
破壊、あるいは奪取していると考えられます」
レイの胸に、小さな引っかかりが走る。
破壊――?
奪取――?
自分たちが見た現場は、そうではなかった。
フィーネが、慎重に言葉を選ぶ。
「……私たちが見た限りでは、
乱暴な破壊の跡はありませんでした」
ルシオは、少しだけ目を細める。
「そうですか。
場所や状況によって、違いがあるのかもしれませんね」
否定はしない。
だが、説明も深めない。
「今回の件は、聖堂としても重く受け止めています。
ですから、どうか――」
一拍置いてから、ルシオは続けた。
「危険な行動は、控えてください」
その言葉は、心配からの忠告のようにも聞こえたし、
距離を保とうとする線引きにも聞こえた。
聖堂を出て、石畳を歩きながら、フィーネがぽつりと言う。
「……話、噛み合ってないわね」
「どっちが嘘、って感じでもない」
カイが肩をすくめる。
「ただ、見てる方向が違うだけだ」
ブロムが言った。
レイは、足を止めた。
ギルドは、深追いをしない。
聖堂は、結論を急いでいる。
どちらも、間違っているようには見えない。
だが――
どちらも、真実を語っていない。
(……俺たちは、知らされてない側だ)
そう、はっきりと思った。




