5.掘り返された痕跡
東の大森林は、以前よりも静かだった。
いや、正確には――
静かすぎた。
鳥の声が少ない。
風は吹いているのに、葉擦れの音が薄い。
「……気持ち悪いわね」
フィーネが、無意識に杖を握り直す。
「前は、こんな感じじゃなかったよな」
ブロムも周囲を見回した。
木々の間を進むにつれ、地面の様子が変わっていく。
踏み固められた跡。
削られた土。
倒木すら、邪魔にならないように寄せられている。
「戦った跡、じゃないな」
カイが低く言った。
「うん……作業、だな」
レイはそう答えながら、胸の奥の違和感に意識を向けていた。
以前、遺物が掘り起こされていた場所が近い。
足を踏み入れた瞬間、はっきりと分かった。
――ここだ。
地面は大きく抉られ、中央に円形の空洞が残っている。
だが、荒らされた印象はない。
掘り方が、整いすぎている。
「盗掘にしちゃ、丁寧すぎるな」
ブロムが唸る。
「壊してない……持ってっただけ、って感じ」
カイが補足する。
フィーネはしゃがみ込み、空洞の縁を指でなぞった。
「……これ、無理に剥がした形跡がないわ。
最初から“外せる”ものだったんじゃない?」
その言葉に、レイの胸が小さくざわついた。
(……やっぱり)
空洞の中心へ、一歩踏み出す。
その瞬間、
胸元の水晶が、ほんのわずかに温もりを帯びた。
光るほどではない。
音もない。
だが――
何かが、残っている。
(……終わってない)
頭に浮かんだのは、それだけだった。
「レイ?」
フィーネが声をかける。
「……いや。何でもない」
そう答えたが、感覚は消えない。
この場所は、役目を終えたのではなく、
“確認された”だけだ。
そのときだった。
森の奥。
視線を感じる。
敵意ではない。
殺気でもない。
ただ、こちらを“見る”感覚。
「……誰か、いる?」
カイが弓を構えかける。
だが、次の瞬間には、その気配は引いていた。
足音もない。
枝が揺れることもない。
まるで――
必要な情報を得た後のように。
「追うか?」
ブロムが低く問う。
レイは首を振った。
「……やめとこう。
今のは、追わせる気がない」
フィーネも頷いた。
「罠の可能性もあるわ。
それに……ここ、もう“空”よ」
事実だった。
残っているのは、空洞と痕跡だけ。
答えは、持ち去られている。
帰路につきながら、レイは何度も森を振り返った。
魔王軍は、ただ――
先に来て、必要なものを持っていった。
その事実だけが、重く残る。
(……じゃあ、次はどこだ)
問いに答える者はいない。
だが、確かなことが一つある。
世界は、表で戦争をしている。
その裏で、別の“調査”が進んでいる。
そして、自分は――
その中心に、少しずつ近づいている。
レイは、胸元の水晶に触れ、そっと手を離した。
まだ、何も分からない。




