4.再び、大森林へ
街の空気が、少しずつ変わり始めていた。
酒場では、勇者の話が当たり前のように語られる。
噂は尾ひれをつけ、英雄譚の形を取りつつある。
「次は反撃だってよ」
「魔王軍を押し返す準備をしてるらしい」
「皇国だけじゃない。各国から志願兵が集まってるって話だ」
勇者軍――
皇国軍を中心に、周辺国の有志部隊を集めた連合。
表向きには「人類のため」。
その言葉に、多くの者が頷き、剣を取る。
一方で、コンコルディア自由共和国は距離を保っていた。
国としての参戦は見送り。
だが、個人の参加までは止めない。
「行きたい奴は行けばいい」
「だが、国は責任を取らない」
そんな、曖昧な立場。
その空気は、確実に街にも伝わっていた。
出立の準備をする冒険者。
家族と別れを告げる者。
残る者と、行く者。
誰もが、何かを選び始めている。
レイは、その喧騒を一歩引いた場所から見ていた。
(……俺は、前線に行く柄じゃない)
勇者のもとへ集う物語。
それは、どこか遠い。
自分は、まだ――
足元で起きていることすら、理解しきれていない。
そんな折、冒険者ギルドの掲示板に、新しい依頼が貼り出された。
東の大森林。
以前、遺物が発掘され、騒ぎになった場所。
【依頼内容】
大森林内部、旧発掘地点周辺の再調査。
目的:異常の有無確認、発掘物の正体に関する追加情報収集。
危険度:中。
期間:短期。
「……また、あそこか」
レイは、無意識に呟いた。
胸の奥が、わずかにざわつく。
「因縁の場所、ってやつ?」
カイが横から覗き込む。
「気になるのは分かるわ」
フィーネも頷いた。
「でも、前より危険かもしれない」
ブロムは腕を組み、低く唸る。
「だからこそ、誰かが行く。だろ?」
レイは、依頼書をじっと見つめた。
あの場所では、
魔人が現れ、
遺物が反応し、
多くのことが“分からないまま”終わっている。
そして今、
世界は大きな戦争に向かって動いている。
前線で何が起きているのか。
勇者の力が、どこまで及ぶのか。
それも重要だ。
だが――
自分にとって、本当に無視できないのは、別の疑問だった。
(……あの場所に、何があった?)
なぜ、遺物が掘り起こされていたのか。
なぜ、魔人が現れたのか。
そして――
なぜ、自分はそこにいたのか。
「受ける」
レイは、短く言った。
仲間たちは、反対しなかった。
それぞれが、分かっている。
これは、英雄の戦争とは別の場所で起きている、
もう一つの流れだということを。
こうして、レイたちは再び、東の大森林へ向かう。




