3.小さな変化
聖堂からの依頼は、相変わらず地味だった。
街道沿いの巡回。
小型魔物の間引き。
巡礼路の安全確認。
いずれも危険度は低く、報酬も高くはない。
だが、今のレイにとっては、ちょうどよかった。
「……また聖堂か、って顔ね」
依頼書を確認しながら、フィーネが苦笑する。
「たまたまだ」
レイは肩をすくめた。
「他が埋まってただけだろ」
「はいはい。聖堂のお気に入りさん」
カイが冗談めかして言い、ブロムが鼻を鳴らす。
「仕事があるだけマシだ。行くぞ」
今回の依頼は、街の南にある巡礼路の調査だった。
数日前から、「夜になると気配が増える」という報告が出ている。
魔物か、ただの獣か。
確認して、必要なら対処する。
日が傾き始めた頃、レイは違和感を覚えた。
(……なんだ?)
空気が、少しだけ重い。
いや、重いというより――
流れがある。
風でもない。
音でもない。
だが、何かが、こちらに向かって“寄ってきている”。
「止まって」
レイは、無意識に手を上げた。
三人が足を止める。
「どうした?」
ブロムが低く問う。
レイは答えに詰まった。
理由が、説明できない。
だが、確信だけがある。
「……前だ。茂みの向こう」
数秒後。
草を踏みしだく音。
小型の魔物が二体、姿を現した。
「……気づくの、早くない?」
フィーネが小声で言う。
「たまたま、だ」
そう答えたが、胸の奥に引っかかりが残る。
戦闘は短かった。
連携も、いつも通り。
だが、終わったあと、レイは自分の剣を見下ろした。
(……今の、踏み込み)
いつもより、深かった。
地面を蹴った感触が、やけに軽い。
疲労も、少ない。
「……調子いいな、今日は」
独り言のように呟く。
フィーネは、じっとレイを見ていたが、何も言わなかった。
帰路につく途中、もう一度、違和感があった。
夜風が冷たい。
だが、寒くない。
胸の奥が、微かに温かい。
(……体、壊れてるとかじゃないよな)
聖堂の依頼は、特別なことは何も起きない。
そう思っていた。
だが、街へ戻る直前――
石灯籠の火が、ふっと揺れた。
風は吹いていない。
一瞬だけ、灯りが強くなる。
レイは足を止めた。
「……?」
次の瞬間、何事もなかったように元に戻る。
「どうしたの?」
フィーネが振り返る。
「いや……気のせいだ」
そう答えた。
本当に、そうだと思った。
だが、胸元の水晶が、
ほんの一瞬、ぬくもりを帯びていたことに――
レイは、気づいていない。




