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冒険者の記録  作者: ぽんかん
3.つかの間停戦に動く影
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2.封じられた寺院

魔王軍が退いたあとも、世界は静まらなかった。


冒険者ギルドに持ち込まれる報告は、どれも似通っている。

古代遺跡の周辺で、不審な影が目撃された。人の形をしているが、人ではない。魔物とも断定できない存在。


その中に――

街の西方にある、封じられた寺院の名があった。


「……そこ、俺が倒れてた場所だ」


レイの言葉に、仲間たちが顔を見合わせる。


「偶然とは言いにくいわね」

フィーネが静かに言った。


「調査依頼、出てる?」

カイがギルド掲示板を確認する。


出ていた。

危険度は中。だが、注記が多い。


――封印状態の変化を確認せよ。

――不用意な接触は禁止。


「行こう」

レイは短く言った。


理由ははっきりしている。

あの寺院は、自分と切り離せない。


寺院は、以前と同じ場所にあった。


風化した石壁。

封印の紋様が刻まれた扉。


だが――近づいた瞬間、違和感が走る。


胸元の水晶が、わずかに熱を帯びた。


「……光ってる?」

カイが目を細める。


それに呼応するように、封印の紋様が軋み、淡い光を放つ。

誰も触れていないのに、扉がゆっくりと開いた。


「……前も、こんな感じだったの?」

ブロムが眉をひそめる。


「いや……」

レイは首を振る。

「前は、気づいたら中にいた」


四人は慎重に足を踏み入れる。


寺院の内部は、静かだった。


だが完全な沈黙ではない。

床や壁の奥で、低い振動が脈打つように伝わってくる。


胸の奥が、じんわりと熱い。


息が、妙に楽だった。

身体が、軽い。


(……調子がいい?)


違和感はある。

だが不快ではない。


そのとき、微かな声が響いた。


『……おかえり……な……さい……』


はっきりとは聞き取れない。

だが、確かに自分に向けられたものだと分かる。


視界の端で、淡い光が走る。

頭の奥が、軽く揺れる。


一瞬――

世界が、違って見えた。


色が、音が、空気の流れが、ほんのわずかに“分かる”。


だが、それはすぐに消えた。


「……今の、何?」

フィーネが小さく呟く。


レイは答えられなかった。


ただ、胸の奥に、確かな変化だけが残っていた。


寺院は、それ以上の反応を示さない。

光も、振動も、次第に収まっていく。


「……起動した、って感じだな」

ブロムが低く言った。


レイは、無言で頷いた。


ギルドへ戻り、報告を済ませようとしたときだった。


受付の奥が、慌ただしくなる。


「……ギルド長が出てくるぞ」


ざわめきの中、奥の扉が開く。


現れたのは、壮年の男だった。

無駄のない動き。

鋭い視線。


ラグナール冒険者ギルド長――

ハロルド・グレイヴス。


「君たちが、寺院の調査班か」


落ち着いた声だった。


レイは、一歩前に出て、起きたことを説明する。

封印が解けたこと。

寺院が反応したこと。

自分が、以前そこで目覚めたこと。


話を聞き終え、ハロルドは短く息を吐いた。


「……想定より、深刻だな」


即断だった。


「この件は、私の判断で、首都のギルド本部へ報告する。

 冒険者の手に余る段階に入った可能性がある」


視線が、レイに向く。


「君の存在も含めてだ」


否定も、詮索もない。

だが、軽く扱われていないことは、はっきり分かった。


「しばらくは、無理をするな。

 動きがあれば、必ずこちらに知らせろ」


レイは、静かに頷いた。

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