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冒険者の記録  作者: ぽんかん
3.つかの間停戦に動く影
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1.戦後処理という仕事

冒険者ギルドからの呼び出しは、いつもより早かった。


「レイさん。

 今回の任務と、これまでの実績を踏まえて――」


受付嬢は、事務的な声で告げる。


「あなたを、中級冒険者へ昇格とします」


一瞬、周囲がざわめいた。


魔人との交戦。

補給任務での功績。

正式な討伐記録。


条件は、確かに満たしている。


「……おめでとうございます」


祝福の言葉は、形式通りだった。


レイは、静かに頷く。


本来なら、喜ぶべきことだ。

装備の選択肢も増え、受けられる依頼の幅も広がる。

冒険者として、一段階上に進んだ証でもある。


だが――

胸の奥に、わずかな引っかかりが残った。


(……タイミングが、良すぎる)


勇者の一撃。

魔王軍の撤退。

そして、各地で急増する依頼。


人が足りない。

前線も、後方も。


「使える人間は、できるだけ前へ」


そんな無言の圧が、ギルド全体に漂っている。


中級冒険者への昇格は、評価である。

だが同時に――

人員を増やすための判断でもある。


それが、透けて見えた。


「……素直に喜べない顔ですね」


受付嬢が、小さく笑う。


「今は、皆さんそうです。

 でも、逃げるわけにもいかないでしょう?」


否定できなかった。


レイは新しいギルド証を受け取り、深く息を吐く。


(……結局、前に進むしかない)


そうして掲示板へ目を向けた。


そこに並んでいたのは――

英雄譚とは程遠い、地味な依頼の数々だった。


勇者の一撃と、魔王軍の撤退。

その噂が街を駆け巡った翌日、冒険者ギルドの掲示板は、いつもと違う様相を見せていた。


派手な討伐依頼はない。

代わりに目立つのは、地味で、目を引かない仕事ばかりだ。


――物資輸送。

――街道の安全確認。

――放棄された村の調査。

――難民の護衛。


「……戦争が終わった、って顔じゃないな」


ブロムが腕を組んで言う。


「当然でしょ。

 前線が動いただけで、後ろはこれからが本番なんだから」


フィーネの声は冷静だった。


レイは依頼書を一枚、手に取る。


【依頼内容】

エルフ王国西方から流入した難民の一時避難地周辺にて、

魔物および不審物の確認、ならびに街道の安全確保。


危険度は低~中。

だが、件数が多い。


「……これ、やる意味はあるのか?」


カイが首を傾げる。


「あるわよ」


フィーネが即答した。


「誰かがやらなきゃ、被害が広がる。

 それだけ」


レイは、黙って頷いた。


派手さはない。

だが、確実に必要な仕事だ。


こういう依頼が、戦争の“後”を支えている。


避難地は、街から少し離れた平原に設けられていた。


簡易の天幕が並び、人々が肩を寄せ合って暮らしている。

子どもの泣き声。

疲れ切った大人たちの沈黙。


戦場の話は、ここまでは届いていない。

彼らにとって重要なのは、今日をどう生き延びるかだけだ。


「魔物は、最近よく出ます」


避難地の責任者が、申し訳なさそうに頭を下げる。


「森が荒れたせいか……

 夜になると、近づいてくるんです」


調査は、地道だった。


足跡を追い、

草の乱れを確かめ、

不要な戦闘は避ける。


それでも、遭遇は避けられない。


二体の魔物。

中型で、単独行動。


「来るわよ」


フィーネの声。


レイは前に出すぎず、仲間との距離を保つ。

勇者のような一撃はない。

だが、確実に倒す。


剣を振るい、

カイの矢が援護し、

ブロムが止めを刺す。


戦闘は短かった。


終わったあと、レイは息を整えながら思う。


(……これが、俺の戦い方だ)


英雄ではない。

だが、無力でもない。


依頼の終わり、避難地の子どもが小さな手を振ってきた。


「ありがとう」


その一言が、胸に残る。


ギルドに戻ると、報告は簡潔に済んだ。


「助かりました。

 こういう依頼を、受けてくれる冒険者が減っていて」


受付嬢の言葉に、レイは少しだけ驚く。


「皆、前線に行きたがるんです。

 勇者の話もありますし」


それを聞いて、理解した。


世界は今、

“分かりやすい物語”を求めている。


勇者と魔王。

勝利と敗北。


だが、その裏で――

誰かが瓦礫を片付け、

誰かが街道を守り、

誰かが明日を繋いでいる。


(……俺は、こっちだ)


そう思った。


戦後処理は、目立たない。

だが、確かに世界を支えている。


レイは依頼書を束ねながら、次の仕事に目を通す。


戦争は、まだ終わっていない。

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