14.閃光の向こうで
補給基地では、撤収の準備が進んでいた。
護送任務は終わった。
あとは街へ戻るだけ――そのはずだった。
荷の固定を確認する兵士、装備をまとめる冒険者。
張り詰めていた緊張が、ようやく少しだけ緩み始めた、そのときだった。
――光。
戦場の方角から、夜空を引き裂くような、白く眩しい閃光が走った。
一瞬、昼になったかのように視界が染まり、次の瞬間、衝撃波が遅れて叩きつけてくる。
地面が揺れ、空気が震え、天幕が軋んだ。
「伏せろ!」
誰かの叫びと同時に、レイは反射的に身を低くした。
耳鳴り。
心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。
何が起きたのか、分からない。
基地は、一気に混乱に包まれた。
「戦略魔法……いや、違うのか!?」
「見たことがない……あんな光!」
「魔王軍か!?」
誰も答えを持っていない。
閃光は一度きりだった。
だが、その余韻は消えず、遠くで雷鳴のような音が遅れて響いた。
基地の指揮官が怒鳴る。
「全員、持ち場を離れるな!
情報が入るまで待機だ!」
だが、待っても、すぐに答えは来なかった。
伝令は戻らず、戦場からの連絡も途絶えたまま。
ただ、あの一撃だけが、確かに存在した。
(……何だ、今のは)
レイは、戦場の方角を見つめた。
あれは、魔物の攻撃ではない。
直感的に、そう思えた。
だが、それ以上のことは分からない。
結局、補給基地では何も確定しないまま、護送隊は予定通り撤収することになった。
不安と疑問を抱えたまま、レイたちは街道を引き返した。
ラグナールへ戻ったのは、それから一週間後だった。
補給基地周辺の混乱と、街道の警戒強化の影響で、帰路は想定以上に時間を要した。
街は、どこかざわついていた。
酒場、市場、冒険者ギルド。
どこでも、同じ話題が囁かれている。
「聞いたか?
魔王軍が、引いたらしい」
「将軍がやられたって話だ」
「勇者の一撃だってよ……」
レイたちは、酒場の隅で、その話を聞いた。
情報は断片的だったが、内容ははっきりしていた。
戦場正面で、勇者が強烈な一撃を放ち、魔王軍侵攻隊の将軍が討ち取られた。
それをきっかけに、魔王軍は進軍を止め、北へ退いたという。
だが――
続く話に、皆の表情が曇る。
「勇者も、無事じゃないらしい」
「力を使い果たして、今は後方で療養中だとさ」
「しばらくは、動けないって……」
勝利とも、敗北とも言えない結果。
魔王軍は退いたが、壊滅したわけではない。
勇者は生きているが、戦える状態ではない。
前線は、膠着。
それが、街に伝わった結論だった。
「……一撃で、流れが変わるなんてな」
ブロムが、低く呟く。
フィーネは杯を見つめたまま言った。
「でも、終わったわけじゃない。
むしろ……始まった、って感じね」
カイも、静かに頷いた。
レイは、何も言わずに考えていた。
補給基地で見た、あの閃光。
あれが、勇者の力だというのなら――
(……俺たちは、本当に、端っこにいる)
だが同時に、思う。
あの光が届かない場所で、
確実に起きている戦いがある。
魔王軍は退いた。
だが、世界はまだ、動いている。




