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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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13.補給基地にて

補給基地は、想像していたよりも静かだった。


だが、それは平穏とは違う。


張り詰めた沈黙。

必要な音だけが、切り取られたように存在している。


荷馬車が並び、兵士たちが無言で荷を下ろす。

包帯を巻かれた者、肩を貸されて歩く者。

医療用の天幕の奥から、かすかな呻き声が漏れていた。


血の匂いが、風に乗って漂ってくる。


(……ここが、前線の入口)


レイはそう理解した。


基地は、森の縁に設けられていた。

防柵は急造で、ところどころ補修の跡がある。

見張り台には、眠気を押し殺した兵士が立っていた。


「ご苦労だった」


責任者らしい士官が、護送隊を迎える。


報告は簡潔だった。

魔物の動き。

西方での衝突。

そして、補給の消耗速度。


「……想定より、早いですね」


士官の言葉に、誰も返事をしなかった。


それが、答えだった。


基地の一角では、冒険者たちが集まっていた。

見慣れない顔も多い。

装備はまちまちだが、共通しているのは、表情の硬さ。


「ドワーフの国から来たって?」


「西が、ひどいらしい」


小声で交わされる情報。


誰も、大声では話さない。


ここでは、噂がすぐ現実になる。


レイは、水を一口飲んだ。

喉を通る感触が、やけに重い。


「……さっきの、魔人」


ブロムが低く言う。


「前にも、こんなのが出てるのか?」


近くにいた兵士が、首を横に振った。


「分からん。

 だが、最近は“人語を話す敵”の報告が増えている」


それだけで、十分だった。


基地の外れには、簡易の墓標が並んでいた。

名もない木杭。

刻まれているのは、日付だけ。


今日のものも、増えている。


フィーネが、視線を伏せた。


「……ここで、止められなかったら」


その先を、誰も言わなかった。


夜になると、基地はさらに静まった。

焚き火の数は最小限。

光は、敵を呼ぶ。


遠くで、何かが爆ぜる音がした。

誰も驚かない。


それが、日常になっている。


レイは、剣を磨きながら、考えていた。


自分は、まだ強くない。

今日勝てたのも、仲間がいて、運が良かったからだ。


だが――

ここに立ってしまった以上、もう戻れない。


補給基地は、前線の入口だ。

そして、一歩踏み出せば、そこから先は――戦場。


(……生きて、戻る)


それだけを、胸に刻んだ。


遠くで、角笛が鳴った。


短く、低い音。


警戒の合図だ。


夜が、さらに深くなる。


そして、戦争は、すぐそこまで来ていた。

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