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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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12.支援物資護送

コンコルディア自由共和国は、決断した。


皇国の要請に全面的に応じるわけではない。

だが、エルフ王国西方で続く戦闘を、完全に他人事として見過ごすこともできなかった。


――支援物資の提供。


武器、食糧、医療品、簡易防具。

あくまで「人道的支援」という名目だ。


それでも、戦場へ向かう物資であることに変わりはない。


護送隊は、共和国軍の兵士を中心に編成された。

だが人手は足りず、冒険者にも護衛依頼が出された。


レイたちも、その一員だった。


「……思ったより、規模が大きいな」


荷馬車の列を見ながら、ブロムが低く呟く。


「戦場に近いってことよ。

 当然でしょう?」


フィーネはそう言いながらも、周囲から視線を離さない。


カイはすでに上空を意識し、索敵に集中していた。


街道を進むにつれ、空気が変わっていく。


風の匂いが違う。

焦げた木材と鉄の匂いが混じり、遠くには焼け落ちた柵や放棄された小屋が見えた。


「……戦場が近いな」


兵士の一人が漏らした言葉に、誰も否定しなかった。


補給基地までは、あと半日ほど。


だが、その手前で、異変は起きた。


「止まれ!」


前方を進んでいた兵士の鋭い声。


次の瞬間、街道脇の林が爆ぜるように揺れ、魔物たちが姿を現した。


数は多くない。

だが、動きが揃っている。


「迎撃!」


兵士たちが陣形を組み、冒険者たちも散開する。


レイは剣を抜き、深く息を吸った。


(……落ち着け)


そのときだった。


魔物たちの後方で、空間が歪む。


まるで空気が裂けるようにして、人の形をした影が現れた。


「……は?」


影は周囲を見回し、鼻で笑った。


「ずいぶん、弱そうなのが集まっているな」


はっきりとした人語。


兵士たちの間に、ざわめきが走る。


「魔人だ……!」


誰かが叫んだ。


魔人は肩をすくめる。


「俺はただ、通り道の掃除を命じられただけだ」


視線が、護送隊を舐めるように走る。


「お前たち、邪魔なんだよ」


次の瞬間、魔物たちが一斉に動いた。


戦場が一気に荒れる。


魔物の数は多くないが、魔人の存在が空気を変える。

魔人の一撃は重く、兵士が吹き飛ばされる。


レイは仲間と連携し、魔物を一体ずつ削っていく。


「左から来るわ!」


フィーネの声と同時に、魔力の光が走り、魔物の動きが鈍る。


「今だ!」


カイの矢が急所を射抜く。


レイは踏み込み、剣を振るう。


一撃では倒れない。

だが、確実に傷は入る。


(……まだ、動ける)


魔人が苛立ったように舌打ちした。


「ちっ、時間をかけすぎたか」


その言葉に、レイは引っかかりを覚えた。


魔人は、状況を把握していない。

命じられた場所に来て、気まぐれに暴れているだけ。


「――レイ!」


ブロムの叫び。


魔人が無造作に腕を振るう。

直撃すれば致命傷。


レイは反射的に前へ出た。


剣を構え、全身で受け止める。


衝撃が走り、腕が痺れ、膝が沈む。


だが、倒れなかった。


(……まだ、立てる)


フィーネの魔法が、魔人の足を縛る。


カイの矢が、視界を奪う。


ブロムが真正面から叩き込む。


そして――

レイは最後の距離を詰めた。


渾身の一撃。


剣が、魔人の胴を深く裂いた。


「……は?」


信じられないという表情のまま、魔人は膝をつき、霧のように崩れ落ちた。


静寂。


魔物たちは統制を失い、散り散りに逃げていく。


「……倒した、のか?」


誰かの呟き。


レイは剣を下ろし、荒い息を吐いた。


だが、胸の奥に残った感覚は、別のものだった。


(……違う)


はっきりと、そう思った。


この魔人は強かった。

だが、理解できる強さだった。


怒り、油断し、慢心する。

感情がそのまま動きに出ていた。


(あのときの……寺院の影は、こんなものじゃなかった)


思い出すだけで、背筋が冷える。


あれは殺気ではない。

威圧でもない。


もっと冷たく、底知れない何か。

こちらを「測る」ような視線。


戦う意思すら見せず、ただ見て、去っていった存在。


「……同じじゃない」


レイは小さく呟いた。


今回の魔人は、前線の一体に過ぎない。

命令の意味も分からず、ただ暴れていた。


だが、あのときの影は違う。


目的があり、余裕があり、

そして――自分を知っているかのようだった。


(……あれは、もっと上だ)


理由は分からない。

だが、確信だけが残った。


今回倒した魔人と、

あの寺院で出会った存在は――


別物だ。


護送隊は損害を出しながらも、任務を続行した。

補給基地は、もう近い。


だが、レイの胸には、重たい予感が残っていた。


戦争は、確実に前線へ近づいている。

そして自分たちは、もう外側の存在ではない。


その現実だけが、静かに突き刺さっていた。

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