11.西方戦線
魔王軍は、南へ進んでいる。
それは、もはや噂ではなく、事実として各地に伝わっていた。
皇国へ向けて。
人類の中枢とされる国へ向けて。
誰もがそう理解していた。
魔王国と皇国――
二つの大国が、正面から衝突しようとしている。
それが、今の世界の見方だった。
魔王軍の進路上には、いくつもの国がある。
北から順に、エルフの国。
その南には、皇国の属国である小国連合。
だが、最初に大きな被害を受けたのは、エルフの国だった。
西方領。
森と平原が広がり、集落と交易路が点在する地域。
そこが、戦場となった。
「魔物が……組織立って動いている」
「今までの群れとは違う」
エルフ王国から届く報告は、深刻さを増していった。
魔物たちは、無秩序に暴れるのではなく、
まとまった数で現れ、
戦っては引き、
別の地点へ移動する。
統制が取れている。
指揮官が存在するかのような動き。
それは、誰の目にも明らかだった。
森は焼かれ、
村は放棄され、
住民たちは南や西へと逃れていく。
エルフの国は、皇国へ救援を要請した。
同時に、共和国や周辺国にも状況が伝えられる。
「魔王軍は、皇国を目指している」
「このままでは、途中の国々が踏み潰される」
「次は、どこだ……?」
そんな言葉が、街道を通じて広がっていった。
北方都市やラグナールにも、難民が流れ込んできている。
森の方角からやってきた者たち。
焼け焦げた荷物を抱え、疲れ切った表情の人々。
冒険者ギルドの掲示板も討伐依頼よりも、
護衛、避難誘導、物資輸送。
赤字で書かれた注意書きが目立つ。
【注意】
エルフ王国西方における戦闘激化により、
当該地域への無許可立ち入りを禁ずる。
酒場では、同じ話題が繰り返されていた。
「勇者が前線に立つらしいぞ」
「皇国が召喚した、本物の勇者だってな」
「これで人類も反撃に出るんだろ」
誰もが、そう信じていた。
魔王軍と皇国が正面衝突する。
その最前線には、勇者が立つ。
分かりやすい構図だった。
レイは、酒場の隅で杯を置き、その話を聞いていた。
(……本当に、それだけの話なのか?)
そう思っても、口には出さない。
確かなのは、
世界が、静かにだが確実に、戦争へ向かっているということ。
エルフの国は、すでに血を流している。
そして、この流れが、どこまで広がるのか――
誰にも分からなかった。
共和国は、まだ戦場ではない。
だが、いつまで「外側」でいられるのか。
その保証も、もうどこにもなかった。




