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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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9.街に波及する動員の波

ラグナールの朝は、騒がしかった。


これまでの忙しさとは、質が違う。

人の数が増えている。物資の動きが速い。声が荒い。


「……ずいぶん、様子が変わったな」


城門近くの広場で、レイは足を止めた。


守備隊が常駐し、簡易の詰所が増設されている。街道から流れ込む荷車は増え、逆に、街を出ていく家族連れの姿も目立つ。


「広域動員の影響ね」


フィーネが、周囲を見回しながら言った。


「守備隊が前に出れば、その穴を埋めるために人が動く。

 物資が集まれば、街の流れも変わるわ」


「飯の値段も上がってる」


ブロムが、露店を指差す。


「鉄もだ。鍛冶場は大忙しだが、一般向けは後回しだな」


カイは、人混みの中で視線を走らせていた。


「冒険者も増えてる。見ない顔ばかりだ。

 ギルドが各地から呼び寄せてるな」


実際、通りには様々な装備の冒険者が行き交っている。

目的地も、滞在期間も、ばらばら。共通しているのは、落ち着きのなさだった。


ギルドに入ると、その空気はさらに濃くなる。


掲示板の依頼は張り替えが追いつかず、受付では順番待ちの列が伸びている。

通常依頼の横に、赤字で書かれた補足が増えていた。


「緊急性あり」

「他地域連携」

「期限厳守」


「……完全に、戦時の動きね」


フィーネが小さく息を吐く。


受付嬢は、疲れを隠さずに説明した。


「街道の封鎖と再開が頻発しています。

 難民の受け入れ、物資護送、巡回の増員……

 ギルド本部から、しばらくは休みなしで回せと」


「街は大丈夫なのか?」


レイが尋ねる。


「今のところは」


受付嬢は、そう答えたが、言葉を濁した。


「ただ……

 “安全だった仕事”が、急に危険になることもあります。

 気をつけてください」


ギルドを出ると、鐘の音が鳴った。

臨時の告知だ。


広場に人が集まり、役人が声を張り上げる。


「神皇国より、正式な通達が出た!」


魔王復活への警戒。

街道の規制。

徴用ではないが、協力要請。


言葉は丁寧だが、拒否できる空気ではない。


人々の反応は様々だった。


不安。

怒り。

諦め。


「……英雄がいるんだろ?」


誰かが言う。


「勇者様が、何とかしてくれるんじゃないのか?」


別の誰かが答える。


「それまで、俺たちが耐えろってことだ」


レイは、その会話を聞きながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。


英雄がいるから安心。

だから今は我慢。


だが、街の現実は、英雄の有無に関係なく重くのしかかっている。


(……守るって、こういうことか)


前線ではなく、後方でもない。

その中間で、確実に負担が積み重なっていく。


夕方、宿へ戻る途中、聖堂の前を通りかかる。


扉は開き、人の出入りが増えていた。

祈りを捧げる者、支援を求める者、何かを託す者。


その中に、見覚えのある司祭の姿はなかった。


レイは足を止めず、通り過ぎる。


胸元の水晶は、今日も静かだ。


だが、街全体が、何かに追い立てられるように動いている。


それは、遠い戦争の話ではない。

確実に、この場所にまで届いた“現実”だった。


「……しばらく、楽な仕事はなさそうだな」


レイの言葉に、誰も否定しなかった。

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