表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
28/70

8.広域動員の最前線

北方街道は、かつての姿を失っていた。


ラグナールを出て半日。街道の要所には簡易の柵が組まれ、守備隊の槍が並ぶ。荷車は列を成し、行き交う人々の足は重い。検問の合間に聞こえるのは、泣き声と、苛立ちを押し殺した怒鳴り声だった。


「……封鎖、か」


カイが低く呟く。


「完全じゃないけど、流れを制限してるわね」


フィーネは周囲を見渡しながら言った。

「魔物の動きが読めないから、補給線と避難路を分けているみたい」


ブロムは腕を組み、荷車の列を見つめる。

「遅れりゃ、腹が減る。前に進めなきゃ、不安が溜まる。……揉めるのも無理はねぇ」


レイたちの任務は、街道の巡回と難民誘導、そして“取りこぼし”の対応だった。戦線ではない。だが、誰かがやらなければ崩れる場所だ。


検問所の脇で、老いた商人が声を荒げていた。

「この先に倉がある! 荷を下ろせば皆が困るんだ!」


守備兵が困った顔で首を振る。

「命令です。今は人を優先してください」


「人だと? この荷が人を生かすんだ!」


言い争いの間に、列の後方がざわついた。

子どもを抱えた女がよろめき、荷車の下敷きになりかける。


「危ない!」


レイが駆け寄り、荷車を押さえる。

ブロムが反対側から肩を入れ、カイが周囲に声を飛ばす。


「道を空けて! 今は動かすな!」


フィーネは素早く女の様子を見て、落ち着いた声で言った。

「大丈夫。息を整えて。水はある?」


小さな混乱は、すぐに収まった。

だが、こうした“すれ違い”が、街道のあちこちで起きているのが分かる。


(……戦いは、もう始まってる)


レイはそう思った。


昼を過ぎ、列が少しずつ進み始めた頃、異変は起きた。


街道脇の林から、獣の気配。

カイが即座に合図を出す。


「来る。数は――三、いや四」


魔物だ。だが、動きが妙に揃っている。

先頭が囮のように姿を見せ、残りが側面へ回る。


「統制、取ってる……!」


フィーネの声に緊張が走る。


「難民を下げろ! 守備隊、前へ!」


レイは前に出すぎない。

ブロムと並び、街道中央を守る位置。

カイの矢が、回り込みを止める。


一体が飛び出した瞬間、レイは踏み込み、剣を振る。

浅い。だが止めるには十分。

ブロムの斧が追撃し、地面に伏せる。


反対側からもう一体。

フィーネの術が足元を縛り、守備隊の槍が貫く。


短いが、息の詰まる戦いだった。

魔物は引いた。撤退の仕方まで、どこか“教えられた”ようだ。


「……引き際まで、整ってる」


カイが眉をひそめる。


難民の列から、安堵の息が漏れる。

だが、恐怖は消えない。むしろ、形を変えて残る。


検問の裏で、若い男が呟いた。

「北から来たんだ……村が、急に……」


誰も続きを促さなかった。

言葉にすれば、現実になるからだ。


日が傾く頃、巡回は一区切りついた。

封鎖は維持され、避難路は何とか流れ始める。


レイは、胸元に触れた。

例の水晶は、今日も静かだ。


だが――魔物が近づいた瞬間、ほんの一度だけ、胸の奥が“きしんだ”。


(……気のせい、じゃない)


帰路につく一行の背後で、街道はなお忙しく動き続けていた。

戦場ではない。けれど、ここもまた最前線だ。


英雄がどこかで剣を振るっていようと、

この場所では、名もない手が世界を支えている。


レイは剣を鞘に収め、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ