7.冒険者ギルドによる広域動員
翌朝、ラグナールの冒険者ギルドは、異様な空気に包まれていた。
まだ陽が高くなる前だというのに、掲示板の前には人だかりができている。普段なら見かけない中級、上級の冒険者の姿も多い。鎧の音、剣の鞘が擦れる音、抑えた声で交わされる情報――それらが混じり合い、落ち着かないざわめきを生んでいた。
レイたち四人が中に入ると、すぐに異変が分かった。
掲示板一面に、新しい張り紙が増えている。
「……全部、同じ印だな」
カイが、壁に押された朱印を指差す。
それは、広域動員を示すギルド本部の印章だった。
討伐。
護衛。
調査。
街道警備。
避難誘導。
どれも、期限付き。
どれも、通常より報酬が高い。
「ギルド本部からの一斉指示よ」
受付嬢が、少し疲れた顔で説明した。
「魔物の活動が各地で活発化しています。単発ではなく、広範囲で。対応できる冒険者は、可能な限り動員する方針です」
「つまり……」
ブロムが腕を組む。
「戦争の準備、みたいなもんか」
「そこまでは言っていませんが……」
受付嬢は言葉を濁した。
「ただ、今後しばらくは、街や国をまたぐ依頼が増えます。移動を伴う仕事も多くなるでしょう」
周囲を見回すと、冒険者たちが依頼書を剥がし、仲間を探し、地図を広げている。いつもの「仕事選び」の空気ではない。
「選別だな」
カイが小さく言った。
「動ける者から、前に出される」
フィーネは掲示板を見つめながら、静かに息を吐いた。
「……魔王の話が出た途端、これだもの。偶然とは思えないわ」
「勇者様がいるなら、俺たちは必要ないと思ってたが」
ブロムが苦笑する。
「現実は逆、か」
レイは、一枚の依頼書に目を留めた。
「北方街道・定期巡回および補給線警護」
行き先は、以前訪れた北方都市ヴァルノス方面。
内容は地味だが、動き始めた“線”の一部であることは明らかだった。
(……逃げ場は、ないな)
冒険者である以上、世界が揺れれば、否応なく巻き込まれる。
「どうする?」
カイが、レイを見る。
「受けるしかないわね」
フィーネが、先に答えた。
「避けて通れる段階は、もう終わってる」
ブロムも頷く。
「後方の仕事でも、誰かがやらなきゃならん」
レイは、最後に一度だけ、胸元に触れた。
水晶は、今日も静かだった。
だが、ギルドの壁に貼られた無数の依頼書が告げている。
世界は、明確に“次の局面”へ入った。
「……行こう」
レイはそう言い、依頼書を剥がした。
英雄ではない。
選ばれた存在でもない。
それでも、冒険者として、歩みを止めることはできなかった。




