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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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7.冒険者ギルドによる広域動員

翌朝、ラグナールの冒険者ギルドは、異様な空気に包まれていた。


まだ陽が高くなる前だというのに、掲示板の前には人だかりができている。普段なら見かけない中級、上級の冒険者の姿も多い。鎧の音、剣の鞘が擦れる音、抑えた声で交わされる情報――それらが混じり合い、落ち着かないざわめきを生んでいた。


レイたち四人が中に入ると、すぐに異変が分かった。


掲示板一面に、新しい張り紙が増えている。


「……全部、同じ印だな」


カイが、壁に押された朱印を指差す。


それは、広域動員を示すギルド本部の印章だった。


討伐。

護衛。

調査。

街道警備。

避難誘導。


どれも、期限付き。

どれも、通常より報酬が高い。


「ギルド本部からの一斉指示よ」


受付嬢が、少し疲れた顔で説明した。


「魔物の活動が各地で活発化しています。単発ではなく、広範囲で。対応できる冒険者は、可能な限り動員する方針です」


「つまり……」


ブロムが腕を組む。


「戦争の準備、みたいなもんか」


「そこまでは言っていませんが……」


受付嬢は言葉を濁した。


「ただ、今後しばらくは、街や国をまたぐ依頼が増えます。移動を伴う仕事も多くなるでしょう」


周囲を見回すと、冒険者たちが依頼書を剥がし、仲間を探し、地図を広げている。いつもの「仕事選び」の空気ではない。


「選別だな」


カイが小さく言った。


「動ける者から、前に出される」


フィーネは掲示板を見つめながら、静かに息を吐いた。


「……魔王の話が出た途端、これだもの。偶然とは思えないわ」


「勇者様がいるなら、俺たちは必要ないと思ってたが」


ブロムが苦笑する。


「現実は逆、か」


レイは、一枚の依頼書に目を留めた。


「北方街道・定期巡回および補給線警護」


行き先は、以前訪れた北方都市ヴァルノス方面。

内容は地味だが、動き始めた“線”の一部であることは明らかだった。


(……逃げ場は、ないな)


冒険者である以上、世界が揺れれば、否応なく巻き込まれる。


「どうする?」


カイが、レイを見る。


「受けるしかないわね」


フィーネが、先に答えた。


「避けて通れる段階は、もう終わってる」


ブロムも頷く。


「後方の仕事でも、誰かがやらなきゃならん」


レイは、最後に一度だけ、胸元に触れた。


水晶は、今日も静かだった。


だが、ギルドの壁に貼られた無数の依頼書が告げている。


世界は、明確に“次の局面”へ入った。


「……行こう」


レイはそう言い、依頼書を剥がした。


英雄ではない。

選ばれた存在でもない。


それでも、冒険者として、歩みを止めることはできなかった。

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