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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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6.酒場で語られる“公式の物語”

その噂が流れ始めたのは、昼ではなく夜だった。


ギルド酒場。

一日の仕事を終えた冒険者や職人たちが集まり、酒と食事を囲む時間。

情報が、最も無防備に、そして最も正確に漏れ出る場所。


レイたち四人も、いつもの卓に腰を下ろしていた。


「……来たな」


カイが、低く言った。


酒場の奥。

守備隊の兵士と、見慣れない旅装の男たちが話している。

その周囲に、自然と人が集まり始めていた。


「皇国からの正式な通達だそうだ」


誰かが声を張り上げる。


「魔王が復活した」


ざわ、と空気が揺れた。


「場所は大陸最北端。

 エルフ王国のさらに北――封印域と呼ばれていた土地だ」


「魔族が旗揚げを行い、

 すでに軍勢を整えつつあるらしい」


フィーネが、無意識に背筋を伸ばす。


「……魔王」


物語の中の存在。

だが、ここ最近の出来事を思い返せば、ただの空想とも言い切れない。


話は続く。


「神皇国は、これを重大な脅威と判断。

 人類を守るため、勇者を召喚した」


「勇者?例の勇者様か?」


ブロムが眉をひそめる。


「本物の、か?」


「そうだ。異界より招かれた、選ばれし存在だと」


酒場のあちこちで、どよめきが広がる。


「つまり……」


カイが、言葉を選びながら呟いた。


「魔王が現れたから、勇者を呼んだ。

 そういう話、ってことか」


「ええ」


フィーネが、静かに頷く。


「公式には、そう」


レイは、黙って話を聞いていた。


魔王復活。

勇者召喚。

人類を守るための、正当な対応。


どれも、筋は通っている。

少なくとも――酒場で語られる分には。


だが。



それでも、胸の奥に、微かな違和感が残る。


最近の魔物の動き。

遺跡や古い装置の周辺での異変。

統制された行動。


まるで、何かが始まることを知っていたかのような。


「まあ、勇者様がいるなら安心だろ」


誰かが笑う。


「魔王だろうが何だろうが、

 英雄が倒してくれるさ」


「俺たち冒険者は、後方支援だな」


軽口が飛び交い、酒場は徐々にいつもの賑わいを取り戻していく。


ブロムが、ジョッキを置いた。


「……話としては、分かりやすいな」


「ええ」


フィーネも、同意するように言う。


「分かりやすすぎる、気もするけど」


カイが、視線を落としたまま続けた。


「公式発表ってのは、

 だいたい“都合のいい部分だけ”を並べるもんだ」


誰も、反論しなかった。


レイは、胸元に手を当てる。

例の水晶は、静かにそこにあった。


何の反応もない。

熱もない。


それでも――

世界が、大きく舵を切ったことだけは、はっきりと分かった。


「……俺たちは」


レイが、ぽつりと言う。


「当分、忙しくなりそうだな」


「違いないわね」


フィーネが答える。


「魔王だの勇者だの、

 そんな話が出てくる時代は、

 いつも、冒険者の出番が増えるもの」


それが、英雄譚の前触れなのか。

それとも、別の何かなのか。


今は、まだ分からない。

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