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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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5.日常に混じる“勇者”の噂

ラグナールの朝は、いつも通りだった。


城門の前では農民が荷車を押し、鍛冶場からは鉄を打つ音が響く。酒場の女将が掃除を終え、通りに水を撒いている。忙しなくも、街は変わらぬ平穏を保っていた。


レイはギルド直営の安宿を出て、剣を腰に提げる。


今日は討伐でも護衛でもない。倉庫整理と街道の簡易巡回。地味だが、今の自分にはちょうどいい仕事だ。


「……無理をするな、か」


アレインの言葉が、ふと頭をよぎる。


胸の内ポケットの水晶は、相変わらず沈黙している。熱もなく、反応もない。ただ、そこにあるだけだ。


巡回を終え、昼前にギルドへ顔を出すと、いつもより人が多かった。受付前に人だかりができ、酒場側からもざわめきが漏れている。


「なんだ?」


カイが首を傾げる。


「噂よ」


フィーネが肩をすくめた。


「今度は、勇者だって」


「……勇者?」


ブロムが鼻で笑う。


「また大層な話だな」


酒場の一角で、冒険者たちが声を潜めている。


「神皇国で、勇者が召喚されたらしい」

「本物か?」

「さあな。でも、聖堂絡みだって話だ」

「最近の魔物の動きも、そのせいじゃないか?」


レイは、黙って耳を傾けていた。


勇者。

物語の中だけの存在。魔王を討ち、世界を救う英雄。


(……本当に、そんなものがいるのか)


「どこか遠い話ね。

 でも、本当だとしても、私たちには関係ないわ」

フィーネが言う。




「だな」


カイも頷く。


「勇者が出るなら、前線は国の騎士団と聖騎士団の話だ。俺たちは関係ないし、あったとしても後始末ぐらいさ」


ブロムはジョッキを傾ける。


「それで世の中が落ち着くなら、ありがたい話だ」


誰も、本気では信じていない。

噂話として、酒の肴にする程度だ。


だが、レイの胸には小さな引っかかりが残った。


魔物の統制。

遺物を探すような動き。


すべてが、無関係だとは思えない。


「……どうした?」


カイに問われ、レイは首を振った。


「いや。なんでもない」


本当だ。

今の自分は、ただの初級冒険者。


世界を救う勇者の話など、遠すぎる。


それでも――

この世界が確実に“次の段階”へ進み始めていることだけは、否定できなかった。


酒場の外で、鐘が鳴る。


いつもと同じ音。

いつもと変わらない一日。


だが、その裏で、別の物語が静かに動き始めていた。

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