(幕間)皇帝の決断
――神皇国アウレリオン・皇都
大陸の中央。
数多の街道と宗教権威が集束する国家――神皇国アウレリオン。
その皇都の最奥、白亜の玉座の間に、重苦しい沈黙が落ちていた。
高い天井には聖紋が刻まれ、光を反射する柱が並ぶ。だが、その神聖さとは裏腹に、集められた家臣たちの表情は硬い。
玉座に座る男――
神皇国皇帝、レオニス・アウレリウスは、静かに報告書を閉じた。
「……各地で、兆候が一致しているな」
低く、抑えた声。
「魔物の活動活発化。
遺跡周辺への集中。
そして、統制された行動」
側近の一人が一歩前に出る。
「はい。
コンコルディア自由共和国からの報告とも符合します。
古文書に記された――“魔王復活の前兆”と」
ざわめきが走る。
その言葉は、この場にいる誰もが避けてきたものだった。
「だが、確証はない」
別の家臣が反論する。
「兆候だけで動けば、
世界調和聖教会との関係に深刻な亀裂が生じます」
「禁忌ですぞ、陛下」
老臣が震える声で言った。
「勇者召喚の儀は、
古代の遺物を用いた、時と空間を歪める大罪。
聖堂の監督なく行えば、それは――」
「裏切りだ、と言いたいのだろう」
皇帝は、淡々と遮った。
場が静まる。
皇帝は、ゆっくりと立ち上がった。
「確かに、禁忌だ。
そして、教会の意に反する行為でもある」
一歩、前へ。
「だが――」
その声には、迷いと同時に、確固たる決意が宿っていた。
「もし、魔王が復活すればどうなる?」
「国境は意味を失い、
宗派も、条約も、理念も、すべて後回しになる」
「そのときになって、
“決断できなかった”では済まされぬ」
家臣たちは、沈黙した。
皇帝は、拳を握りしめる。
「私は、皇帝だ」
「神皇国のためではない。
教会のためでもない」
「――人類のために、決断する」
玉座の間に、重い空気が満ちる。
「勇者召喚の儀を準備せよ」
明確な命令だった。
「聖堂には、正式な通知は出す。
だが、許可は求めぬ」
「これは、私の責任だ」
しばしの沈黙の後、家臣たちは膝をついた。
「……御意」
こうして、歴史の歯車は静かに回り始める。
それが、
もう一つの物語――




