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冒険者の記録  作者: ぽんかん
2.勇者と魔王
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4.酒場に流れる噂

ギルド酒場は、いつもより少し騒がしかった。


夕刻。依頼帰りの冒険者や、守備隊の非番兵が集まり、酒と飯を囲んでいる。笑い声もあるが、それ以上に、低く抑えた話し声が目立っていた。


レイは、いつもの卓に腰を下ろす。向かいにはカイ、隣にフィーネ、少し遅れてブロムが木製のジョッキを持ってきた。


「なんだか、落ち着かない雰囲気だな」


ブロムが顎で周囲を示す。


「噂、聞いた?」


フィーネが小声で切り出した。彼女は耳がいい。情報も早い。


「聖騎士団が、魔物とやり合ったらしいわ。それも……結構な規模で」


「へえ?」


カイが眉を上げる。


「ラグナールの近く?」


「いいえ。南の街道沿い。それと、北の方でも似た話が出てるって」


レイは、自然と身を乗り出していた。


「魔物相手に、聖騎士団が?」


「そう。しかもね……ただの討伐じゃないの」


フィーネは言葉を選ぶように、一拍置く。


「魔物たちが、統制を取って動いていたって」


その言葉に、卓の空気が変わった。


魔物は、基本的に本能で動く。群れることはあっても、役割分担をし、連携して戦うことはほとんどない。


「……珍しい、どころじゃないな」


ブロムが唸る。


「騎士団側も被害が出たらしいわ。だから、表には出してないみたいだけど」


「周辺国でも、似たような話がある」


カイが続けた。彼は情報屋気質だ。


「騎士団と魔物が衝突した、とか。街道が一時封鎖された、とか。点で見れば小さいけど……線にすると、妙だ」


レイは、ジョッキを持つ手を止めた。


(……また、か)


大森林。

古代の装置。

動きを止めたゴーレム。

街道での牙狼。

そして――魔物の“目的”。


頭の中で、断片が静かにつながりかける。


「何かが、起きてる」


ぽつりと、レイが言った。


誰も否定しなかった。


「大事になる前触れ、ってやつかしら」


フィーネの声は、いつもより硬い。


「俺たちみたいな冒険者が、どうこうできる話じゃねえかもしれんが……」


ブロムはそう言いながらも、表情は険しい。


「でも、巻き込まれる可能性はある」


カイが言った。


「むしろ、もう巻き込まれ始めてるかもな」


その言葉に、レイは胸の内ポケットにある水晶を思い出した。


まだ何も起きていない。

だが、確実に、何かが近づいている。


「……用心しよう」


レイはそう言って、ジョッキを口に運んだ。


酒の味は、いつもと変わらない。


それが、かえって不安だった。


世界は、静かな顔をしたまま、確実に歯車を回し始めている。


それを、彼らはまだ――

正しく理解してはいなかった。

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