(幕間)揺らぐ兆し
コンコルディア自由共和国――
首都アウレリア。
白い石で築かれた城壁の内側、共和国騎士団本部。
その最上階にある会議室には、重い空気が満ちていた。
長机を囲むのは、騎士団上層部、参謀、そして共和国評議会から派遣された使者たち。
壁一面には、大陸全図が掲げられている。
地図の各所に打たれた赤い印。
それは偶然とは言い難い配置だった。
「……大森林の事件以降だ」
騎士団長が、低い声で口を開く。
「各地で、魔物の行動に明確な変化が見られる」
参謀が一歩前に出て、資料を差し出した。
「討伐報告、街道警備、辺境からの連絡を精査しました。
魔物たちは、無差別に暴れているわけではありません」
地図を指し示す。
「遺跡跡地、古戦場、封印が施されたとされる土地――
いずれも、古い時代の記録と結びつく場所です」
「まるで……」
評議会の一人が、言葉を探す。
「“何か”を探しているようだな」
沈黙。
誰も否定しなかった。
「問題は、その背後です」
参謀の声が、わずかに強まる。
「我々は、魔物を統率、あるいは誘導している存在がいると見ています」
会議室の空気が、張り詰めた。
「……魔族、か」
誰かが、そう呟いた。
古い言葉。
だが、歴史書に確かに記された存在。
「古の大戦において、
我々人類は魔族と戦った」
騎士団長が、静かに続ける。
「多くの犠牲を払い、
どうにかこれを退けたとされている」
「だが――」
拳を握りしめる。
「完全に滅ぼしたという確証は、
どこにも残っていない」
参謀が、慎重に言葉を選ぶ。
「もし、魔族が再び動き始めているのだとすれば。
もし、その背後に“王”の存在があるのだとすれば」
一瞬、間が空いた。
「魔王復活を目論んでいる可能性も、
否定はできません」
会議室に、重い沈黙が落ちる。
評議会の使者が、静かに口を開いた。
「……放置はできない」
騎士団長は、即座に頷いた。
「調査隊を各地に派遣する」
「遺跡、古戦場、封印域。
可能な限り、警戒と調査を行え」
「同時に――」
評議会の使者が続ける。
「周辺諸国にも、この危惧を共有する」
「表向きは、
“魔物の異常行動に対する注意喚起”という形で」
「だが、内々には伝えるべきだ。
世界が、再び同じ過ちを繰り返さぬように」
誰も異を唱えなかった。
騎士団長は、地図を見つめながら呟く。
「……まだ、確証はない」
「だが、
何かが動き始めているのは、間違いない」
会議室の窓の外では、
首都アウレリアの日常が続いていた。
人々は知らない。
自分たちが“人類”だと疑いもしないまま、
世界の歯車が、再び回り始めていることを。




