15.上級冒険者
ヴァルノスへ戻った翌日、
レイたちは冒険者ギルド本部へ向かった。
ギルド長室は、街の規模にふさわしく広い。
壁には古い地図と、歴代の名冒険者たちの武具が飾られている。
「……なるほど」
ギルド長は、報告書に目を通しながら何度も頷いた。
「謎のゴーレム。戦闘中に突如停止し、その後は再起動の兆候なし」
書類を置き、顔を上げる。
「よく生きて戻ったな。
情報としても、調査としても十分すぎる成果だ」
そう言って、
報酬袋を机の上に置いた。
「……これは過分だ」
ブロムが思わず声を漏らす。
ギルド長は苦笑する。
「貴重な情報だ。古代兵器、あるいはそれに類する存在の可能性がある」
「ギルドと聖堂から人を出して、
現地の確保とゴーレムの回収を進めることになるだろう」
その言葉に、レイは胸の奥がざわつくのを感じた。
(……聖堂も、動く)
「それと」
ギルド長は、少し間を置いて続けた。
「ヴァルノスの冒険者ギルドに、
拠点を移す気はないか?」
思わぬ提案だった。
「この街なら、より高難度の依頼も回せる」
「成長の機会も、ラグナールより多い」
レイは、仲間の顔を見る。
カイも、
フィーネも、
ブロムも、
何も言わない。
「……いえ」
レイは、
一度だけ息を整えてから、はっきりと答えた。
「俺たちは、
ラグナールに戻ります」
ギルド長は、
少しだけ目を細めてから頷いた。
「そうか。
それも冒険者の選択だ。無理に引き留めるつもりはない」
帰り支度を整え、ギルドを出ようとしたときだった。
「待って」
声をかけてきたのは、
リセルだった。
「一つ、
手合わせをしてみない?」
突然の提案に、一瞬、間が空く。
「上級冒険者の胸を借りる機会なんて、
そうそうないわよ?」
その言葉にブロムが笑った。
「断る理由がねぇな」
「……勉強にはなるわね」
フィーネも静かに頷く。
カイは翼を軽く動かした。
「やろう」
ギルド併設の訓練場。
円形の闘技場には、
いつの間にか見物人が集まり始めていた。
「四人で一人を相手に?」
「相手は、あのリセルだぞ」
ざわめきが広がる。
模擬戦開始。
合図と同時に、
カイが動く。
空からの牽制射撃。
同時にフィーネが詠唱に入る。
「足止めを――」
だが。
リセルはそのすべてを見切っていた。
矢を剣で弾く。
間合いを一気に詰め、フィーネの目前に立つ。
「甘い」
軽く柄で打たれ、フィーネは後退を余儀なくされる。
「くっ……!」
ブロムが斧を振るう。
重い一撃。
だが、リセルは真正面から受け流し、
体勢が崩れた瞬間を逃さず蹴りを入れた。
「――っ!」
ブロムが転がる。
レイは、
遅れまいと踏み込んだ。
剣を振る。
一太刀。
二太刀。
だが、
すべて空を切る。
「動きは悪くない」
そう言われた次の瞬間、
剣を弾かれ、
足元を払われた。
背中から、
地面に叩きつけられる。
「……終わりよ」
リセルの声。
気づけば、
全員が地面に倒れていた。
一方的だった。
だが――
屈辱よりも、
圧倒的な差を正面から突きつけられた感覚が残る。
「……強いな」
ブロムが、
苦笑しながら言う。
「ええ」
フィーネも息を整えながら頷いた。
「立っている場所が、まるで違う」
レイは立ち上がり、
リセルの前に立つ。
差し出された手を、
迷わず握った。
「ありがとう」
その一言に、
悔しさも、感謝も、決意も込められていた。
「こちらこそ」
リセルは、
静かに笑った。
翌朝。
街門の外で、
リセルは彼らを見送った。
「……また会うこともあるでしょう」
そう言って、
軽く手を振る。
レイたちは、
北風を背にラグナールへの道を歩き出した。
まだまだ、遠い。




