13.北方聖堂都市ヴァルノス
北へ向かう街道は、ラグナールのそれとは明らかに空気が違っていた。
風は冷たく、空は高い。
雲の流れも速く、足取りを急かされるようだ。
峠を越え、視界が開けた先に、石造りの街並みが現れる。
「……あれが、ヴァルノスか」
カイが翼を揺らし、感心したように呟いた。
北方聖堂都市ヴァルノス。
交易と信仰の要衝であり、北部一帯を束ねる宗教都市。
街の中心には、ラグナールの聖堂とは比べものにならない規模の、白い石の大聖堂がそびえていた。
「聖堂が……街そのものだな」
フィーネが小さく言う。
「嫌いじゃねぇが、落ち着かねぇ」
ブロムは肩をすくめた。
レイも、同じ感覚を抱いていた。
(……力が、前に出すぎてる)
それが、この街に足を踏み入れた瞬間の違和感だった。
聖堂での用件は、形式的には簡単だった。
書面の確認。
署名。
受領の印。
「確かに、受け取りました」
北方聖堂の司祭は、穏やかな笑みを浮かべる。
「よろしければ、旅の安全祈願も兼ねて、少しだけ」
案内された小部屋で、レイは水晶に手をかざした。
一瞬、胸の奥が微かに熱を帯びる。
だが、それはすぐに引いた。
「問題ありません」
司祭はそう告げ、それ以上は踏み込まなかった。
仲間たちも、特に気に留めた様子はない。
用件を終えた一行は、ヴァルノスの冒険者ギルドへ向かった。
建物は大きく、出入りする冒険者たちの雰囲気も引き締まっている。
「……空気、重くねぇか?」
ブロムが低く言う。
「腕の立つ人が多そう」
フィーネが掲示板を見上げる。
「実力がなきゃ、居場所はないだろうね」
「だからこそ、情報も集まる」
カイが周囲を警戒するように見回した。
受付を済ませ、掲示板の前で立ち止まったとき――
「……見ない顔ね」
背後から、落ち着いた声がした。
振り返ると、一人の女性剣士が立っていた。
長い外套。
使い込まれた剣。
無駄のない立ち姿。
「ラグナールから?」
「そうだ」
レイが答えるより早く、ブロムが頷いた。
「北は初めてでな」
女性は一瞬、レイだけでなく、仲間全員を見渡す。
「……連携は悪くなさそうね」
それだけ言い、視線をレイに戻した。
「この街じゃ、覚悟のない奴は長く残れないわ」
忠告とも、試す言葉とも取れる口調。
「リセル・アルディア
ヴァルノスで剣を振ってる」
名を名乗り、軽く顎を引く。
「……北方の名剣士様じゃねぇか」
ブロムが小さく息を飲んだ。
レイは、まだその名の重みを知らない。
だが――
理由は分からない。
それでも、仲間と並んで立つ自分を見て、なお視線を向けてきた意味が、少しだけ分かる気がした。
ギルドの窓越しに、白い聖堂の塔が夕陽を反射する。




