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冒険者の記録  作者: ぽんかん
1.はじまり
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9.守備隊長の呼び出し

ラグナールの守備隊詰め所は、町の中央にほど近い場所にあった。


厚い石壁に囲まれた建物は、冒険者ギルドとは違う緊張感を放っている。

秩序と責任――この町を守る側の空気だ。


「入れ」


低く、よく通る声がした。


レイが扉を開けると、机に向かっていた男が顔を上げた。


守備隊長、アレイン・ヴァルド。


初めて会ったときと変わらない、隙のない佇まいだった。


「呼び出してすまないな」


「近況確認だ。それと――」


一拍置く。


「何か、思い出したか?」


レイは首を振った。


「……いえ。自分が何者なのかも、なぜあの寺院にいたのかも」


「そうか」


それ以上は踏み込まない。


「焦る必要はない。思い出す時は、突然来るものだ」


そう言って、話題を切り替えた。


「ところでだ」


「最近、お前――“聖堂の犬”と呼ばれているらしいな」


直球だった。


「……聞いています」


「悪意ばかりじゃない。だが、距離感は大事だ。

 特に聖堂がらみは、余計な邪推を呼びやすい」


アレインは椅子から立ち上がる。


「聖堂は善意も力も持つ。だからこそ、深入りすれば余計なものも背負う」


「利用されるな。だが、突き放しすぎるな」


忠告だった。


「……はい」


「よし」


そう言って、壁に立てかけてあった木剣を手に取る。


「剣を見てやろう」


「え?」


「軽くだ。外へ来い」


詰め所裏の訓練場。


アレインは、レイの構えを見るなり言った。


「型は粗い。だが、逃げ腰じゃない」


踏み込み。

体重移動。

剣の軌道。


一つひとつを、言葉と動きで示していく。


「力で振るな。体で運べ」


木剣がぶつかり、乾いた音が響いた。


最初は動きについていけなかった。


だが、何度か繰り返すうちに、剣の重さが変わる感覚があった。


「……今の」


アレインが小さく頷く。


「使い物にはなる」


過剰な評価ではない。

だが、否定でもなかった。


木剣を下ろし、アレインは本題に入る。


「町の東に、大森林がある」


地図を広げる。


「最近、魔物の出現が増えている」


「調査と、可能なら討伐が必要だ」


レイは地図に視線を落とした。


「人手が足りない」


アレインは、はっきりと言う。


「守備隊だけでは回らん。冒険者にも協力を仰ぐ」


「お前を呼んだのは、今の腕前を見て、最低限現場に出せると判断したからだ」


特別扱いではない。

現実的な判断だった。


「勘違いするな。一人で行かせる気はない」


「他にも数名、冒険者を雇う予定だ」


「この件は、正式にギルドへ依頼として出す」


調査依頼。

複数人参加。

危険度は未確定。


冒険者としては、一段重い仕事になる。


「それと――」


アレインは声を落とす。


「噂話として、聞いておけ」


「この世界には、“魔族”と呼ばれる存在がいる」


かつて、人類と魔族の間で大きな戦いがあったという。


理由は、今となっては分からない。


ただ、膨大な犠牲の末、魔族は滅ぼされた――

そう伝えられている。


「だが、生き残りがいるという噂は絶えない」


「今回の異常も、その仕業じゃないかと囁く者がいる」


事実かどうかは分からない。


だが、調査対象として無視できる話でもなかった。


「覚悟だけはしておけ」


アレインは、真っ直ぐにレイを見る。


「これは、ただの雑魚狩りじゃない」


レイは短く息を整え、答えた。


「……分かりました」


冒険者として、初めて“未知”に向き合う仕事。


それが、この依頼になる。

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