体力測定という名の“試練”、封印されし肉体は今日も不調
4月が終わりかけの、よく晴れた空の下。
体育館横のグラウンドには白線がまっすぐ引かれ、クラスメイトたちのやる気のない声だけが響いていた。
「はい、それじゃあ各自で体力測定の項目を回ってくださーい」
体育教師のゆるい声とともに、生徒たちは散っていく。
その中に――ひときわテンションが高い奴いた。
「ふふ……封印されし肉体が試される……素晴らしい機会だ。我の力、天下に示す時!」
高橋ゆい。
転校してきた美少女。テンションは常に高く、常に元気。そしてすべてを台無しにするほどの、圧倒的・完全・完璧のガチ厨二病。
「ゆい、まず準備運動しろよ。飛ばすとケガ――」
春斗が言い終わる前に、ゆいは戦闘アニメみたいなキックポーズを決めた。
「“星天流舞踏術・第一式”――ふわあっ!?」
そして豪快につまずいてコケた。開始三秒でこれだよ。
「い、今のは地面が急に……揺れた……!」
「揺れてない。お前の重心が迷子になってただけ」
周りはクスクス笑っているが、本人はまったく気にしない。それどころか胸を張り直した。
「やはり準備運動ごときでは、我が肉体に宿る悪魔は満足せぬようだ」
「じゃあ何だったら満足するんだ」
ゆいは反復横跳びのコースを指さした。
「見ておけ春斗。我が影分身を見せてやろう!」
「はいはい」
ゆいが構え、笛が鳴る。
――1往復目。まあまあ。
――2往復目。足が絡む。
――3往復目。器具にガンッ。
「ぎゃうっ!?」
ゆいは崩れ落ち、計測係の女子が固まる。
「……3」
「3って。どんな数字だよ」
「まて、今のはノーカン!!闇の力によって邪魔されただけだ」
許可をとり、ゆいがもう一度挑戦する。
「……5回、そこまで運動できないのか」
春斗がゆいの用紙を見ながら絶句する。
「違うぞ春斗! 今は星の巡りが悪かっただけだ!」
「巡りのせいにすんな」
続いて握力測定。ゆいは機械を握り締めて声を上げる。
「封印された右腕の力を、今こそ解き放つ時。はぁぁぁぁぁあ‼︎」
機械「ピッ……11kg」
「……小学生?」
「今日は魔力が安定してなくて!」
「今日じゃなくても大差なさそうだけど」
「なにその言い方!?」
次は立ち幅跳び。
「地は我に力を与え、風は我に速さを与え、天は我に勇気を与える」
「呪文か?唱えてもあんまり変わんなそうだけど」
「何を言っている!大いに変わるぞ‼︎見てろ‼︎!」
ゆいは軽くしゃがみ――思い切り――
ピョンッ。
計測係「……40センチ?」
高校生女子の平均が170cm。40cmは逆に“才能”を感じるレベル。春斗が不思議そうな顔でゆいを覗きこんだ。
「ゆい……全力で跳んだ?」
「うん。でも、きっと、ルーンが不調だった」
「全部不調じゃねぇか今日」
そんなツッコミが終わらないまま、最後の種目100m走。春斗とゆいは隣同士のレーンだった。
「今度こそ我が真の力を見せてやる!」
「すまんが、一緒に走るから見れないぞ」
「それでも見るんだ!」
と、ゆいが抗議している間にスタートの号令。
「――はっ!」
勢いよく飛び出すゆい。そして10m地点で
――ズザァァァァァッ!!!
盛大に転倒。
「ゆ、ゆい!?」
それでも涙目で立ち上がり、そのまま走りきる。
結果:30.56秒(圧倒的最下位)
ゆいが体の砂埃を払いながら、春斗の元に歩いてくる。
「ぐぅ……次元の乱れ……すごかった……」
「転んだだけだよ」
◆◇◆
帰り道。
「いやー、今日は良き試練だったね!」
「戦いじゃなくて体力測定だよ」
テンション変わらぬゆいに春斗のツッコミがはいる。ゆいは疲れも見せず、満面の笑みを浮かべていた。
「春斗はどうだったか?」
「まあまあ。ゆいが最後までできてよかったよ」
「えへへ、褒めた?」
「どこが!?」
「褒めたよね!? よし、明日は“真の力”を開放してやろう!」
「もう、なんなんだよそれ」
ゆいはケラケラと笑い、いつもの分かれ道に差しかかると――
ふいに立ち止まった。
「春斗」
「ん?」
ゆいは夕日を背にして振り返る。風が黒髪を揺らし、珍しく静かな表情を浮かべる。
「……今日は、色々失敗した。でもさ。隣に春斗がいてくれてよかった。……ありがとう」
唐突な素直さに、春斗は少し言葉を失う。
「……別に。困ってるなら助けくらいはするよ」
「ふふっ。では明日も頼りにするぞ、我が春斗!」
「だから“我が”って付けるな」
ゆいは手を振りながら、夕日に向かって駆けていく。
今日の100m走よりは、だいぶ速い。
「……ほんと、変なやつ」




