表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

体力測定という名の“試練”、封印されし肉体は今日も不調

4月が終わりかけの、よく晴れた空の下。

 

 体育館横のグラウンドには白線がまっすぐ引かれ、クラスメイトたちのやる気のない声だけが響いていた。


「はい、それじゃあ各自で体力測定の項目を回ってくださーい」


 体育教師のゆるい声とともに、生徒たちは散っていく。


 その中に――ひときわテンションが高い奴いた。


「ふふ……封印されし肉体が試される……素晴らしい機会だ。我の力、天下に示す時!」


 高橋ゆい。


 転校してきた美少女。テンションは常に高く、常に元気。そしてすべてを台無しにするほどの、圧倒的・完全・完璧のガチ厨二病。


「ゆい、まず準備運動しろよ。飛ばすとケガ――」


 春斗が言い終わる前に、ゆいは戦闘アニメみたいなキックポーズを決めた。


「“星天流舞踏術・第一式”――ふわあっ!?」


 そして豪快につまずいてコケた。開始三秒でこれだよ。


「い、今のは地面が急に……揺れた……!」

「揺れてない。お前の重心が迷子になってただけ」


 周りはクスクス笑っているが、本人はまったく気にしない。それどころか胸を張り直した。


「やはり準備運動ごときでは、我が肉体に宿る悪魔は満足せぬようだ」

「じゃあ何だったら満足するんだ」


 ゆいは反復横跳びのコースを指さした。


「見ておけ春斗。我が影分身を見せてやろう!」

「はいはい」


 ゆいが構え、笛が鳴る。


――1往復目。まあまあ。

――2往復目。足が絡む。

――3往復目。器具にガンッ。


「ぎゃうっ!?」


ゆいは崩れ落ち、計測係の女子が固まる。


「……3」

「3って。どんな数字だよ」

「まて、今のはノーカン!!闇の力によって邪魔されただけだ」


 許可をとり、ゆいがもう一度挑戦する。


「……5回、そこまで運動できないのか」


 春斗がゆいの用紙を見ながら絶句する。


「違うぞ春斗! 今は星の巡りが悪かっただけだ!」

「巡りのせいにすんな」


 続いて握力測定。ゆいは機械を握り締めて声を上げる。


「封印された右腕の力を、今こそ解き放つ時。はぁぁぁぁぁあ‼︎」


 機械「ピッ……11kg」


「……小学生?」

「今日は魔力が安定してなくて!」

「今日じゃなくても大差なさそうだけど」

「なにその言い方!?」


 次は立ち幅跳び。

 

「地は我に力を与え、風は我に速さを与え、天は我に勇気を与える」

「呪文か?唱えてもあんまり変わんなそうだけど」

「何を言っている!大いに変わるぞ‼︎見てろ‼︎!」


 ゆいは軽くしゃがみ――思い切り――

ピョンッ。


 計測係「……40センチ?」


 高校生女子の平均が170cm。40cmは逆に“才能”を感じるレベル。春斗が不思議そうな顔でゆいを覗きこんだ。


「ゆい……全力で跳んだ?」

「うん。でも、きっと、ルーンが不調だった」

「全部不調じゃねぇか今日」


 そんなツッコミが終わらないまま、最後の種目100m走。春斗とゆいは隣同士のレーンだった。


「今度こそ我が真の力を見せてやる!」

「すまんが、一緒に走るから見れないぞ」

「それでも見るんだ!」


 と、ゆいが抗議している間にスタートの号令。


「――はっ!」


 勢いよく飛び出すゆい。そして10m地点で


 ――ズザァァァァァッ!!!


 盛大に転倒。


「ゆ、ゆい!?」


 それでも涙目で立ち上がり、そのまま走りきる。


結果:30.56秒(圧倒的最下位)

 ゆいが体の砂埃を払いながら、春斗の元に歩いてくる。

「ぐぅ……次元の乱れ……すごかった……」

「転んだだけだよ」


◆◇◆


 帰り道。

 

「いやー、今日は良き試練だったね!」

「戦いじゃなくて体力測定だよ」


 テンション変わらぬゆいに春斗のツッコミがはいる。ゆいは疲れも見せず、満面の笑みを浮かべていた。


「春斗はどうだったか?」

「まあまあ。ゆいが最後までできてよかったよ」

「えへへ、褒めた?」

「どこが!?」

「褒めたよね!? よし、明日は“真の力”を開放してやろう!」

「もう、なんなんだよそれ」


 ゆいはケラケラと笑い、いつもの分かれ道に差しかかると――

 ふいに立ち止まった。


「春斗」

「ん?」


 ゆいは夕日を背にして振り返る。風が黒髪を揺らし、珍しく静かな表情を浮かべる。


「……今日は、色々失敗した。でもさ。隣に春斗がいてくれてよかった。……ありがとう」


 唐突な素直さに、春斗は少し言葉を失う。


「……別に。困ってるなら助けくらいはするよ」

「ふふっ。では明日も頼りにするぞ、我が春斗!」

「だから“我が”って付けるな」


 ゆいは手を振りながら、夕日に向かって駆けていく。

 今日の100m走よりは、だいぶ速い。


「……ほんと、変なやつ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ