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第10話 かつて神童と呼ばれた男

藤麻たちがワープ装置の材料を片付けている頃、菊都と鈴音は駅前のファミレスで、加藤という刑事と向かい合っていた。


「加藤さん、お久しぶりです」

菊都が軽く会釈する。


「公園の死体発見の時の事情聴取以来だな」

加藤はぶっきらぼうに答えた。


「は、初めまして……井上鈴音って言います」

鈴音は少し緊張した声で名乗った。


「加藤だ。よろしく」


「で、加藤さん。今日連絡したのは……」

菊都が切り出そうとすると、加藤が手を上げて制した。


「待て。その前に説明してくれ」


「……説明?なぜ呼び出したかですよね?今から……」


「違う。それじゃない」


「じゃあ何を?」


「なぜ、鈴様がいるんだ?」


「鈴様って……あー、そういう……」


「私のファンの方?」

鈴音が恐る恐る聞く。


「ああ。俺は鈴様の初期からの推しだ。ファンクラブも会員No.008の一桁だ。で、なんでお前みたいなおっさんが鈴様と一緒に行動してる?」


「それも今から話すってば」


「無論、納得できる説明なんだろうな?」


「ええ。刑事さんなら分かってもらえると思います」

鈴音がまっすぐ見つめて言う。


「……鈴様がそう言うなら」


「公園の事件の犯人についての話なの」


「なっ……!どういうことだ?」

加藤は驚いて声を潜めた。


そして菊都は、スキルや異世界の部分だけを伏せ、関川桔梗が怪しいと推察する理由を語った。


「……という流れなんです」


「経緯は分かった。……関川桔梗か。実は一度調べていた。だがな、上からストップがかかったんだ」


「……やはりか。じゃあ、少しでいい。関川桔梗について教えてくれないか?」

菊都が身を乗り出す。


だが加藤はゆっくり首を横に振った。


「なぜですか?」


「守秘義務ってのもあるが……“余計な詮索をするな。口外もするな”と上から言われてる」


「そんなの、関川が怪しいって言ってるようなもんだろ。無視するのか?」


「俺だって調べたいさ。でもな、俺には娘がいる。今年、中学生になったんだ。もし俺がクビになったら……」


「そんな……」

鈴音は悲しげで、でも理解も含んだ複雑な表情を浮かべた。


「悪い人間を全部捕まえるってのは理想論だ。そんな理想論が罷り通るのならこの世に犯罪者なんていない。……とにかく、協力はできない。すまん」

加藤は深く頭を下げた。


少しの沈黙の後、菊都が口を開いた。


「……じゃあ、俺たちを事情聴取してくれませんか?」


「は? 菊都さん、何言ってんだ?」


「俺たちは、とある軍需施設に不法侵入した。そこは関川が運営する施設だったらしい」


「軍需施設……?まさか、あの施設に行ったのか?」


「そういえば……私も、そこで捕まってました」

鈴音が付け加える。


「……つまり菊都さん。あんたが言ってるのは、“その不法侵入”と“鈴様の誘拐事件”の重要参考人として事情聴取する名目で、情報を回せってことか?」


「俺はそんなこと言ってないがな。……君がそう思うならそうなんだろう」

菊都が肩をすくめる。


「……悪い大人だな」

加藤はわずかに笑った。


「そちらの上層部に比べりゃマシでしょう?」

菊都が返す。


「……ごもっともだ。分かった。事情聴取を始めよう。まず、君たちが行った施設についてだが、あそこは“エネルギー資源研究所”と呼ばれている」


「エネルギー資源研究所?」

鈴音が小さく反応する。


「ああ。新たなエネルギー資源の開発・調査をする研究機関だ。その研究の第一人者として国から抜擢されたのが、他でもない関川桔梗だ」


「……なるほど」

鈴音が相槌を打つ。


「俺たちもちょうどこの前、調査に入ったんだがな。だが、職員が全員いなくなっていた。関川本人に話を聞きに行っても“全員辞職した”の一点張りだ。さらに、職員を調べてみると反社会的勢力とつながりのある者ばかりで、しかも全員が行方不明。もう訳がわからん状態だ」


「ところで何で関川が国に抜擢されたんだ? ただの物理学者だろ?」

菊都が尋ねる。


「理由は単純だろうな。関川の“頭脳”だ」


「頭脳?」


「ああ。若い頃から研究に没頭し、国内外の賞をいくつも取っている。昔は“神童”と呼ばれていたらしい」


「……神童ね」


「俺が知っているのはこの程度だ。じゃあ、一応形式として事情聴取の質問に移る」


その後、菊都と鈴音は加藤から基本的な事情聴取を受け、ファミレスを後にした。


「菊都さん。この後はどうする?」


「関川の通っていた高校に話を聞きに行く。アポも取ってあるから、行くぞ」


菊都と鈴音は関川が通っていた高校へと向かった。応接室で待っていると、関川の元担任だという小太りの教師が現れた。


「どうも、教師の竪山といいます。ええと……ご用件は何でしたっけ?」

竪山は額の汗を拭いながら尋ねてきた。


「関川桔梗くんのこと、覚えてますか?彼について調査していて」


「ああ、桔梗くんね。覚えてるよ。気の毒な子だったよね」


「気の毒?」


「うん。今でこそ有名な学者らしいけど、高校時代は相当いじめられててね。大学に入ってからも続いてたらしい」


「いじめ……ですか?」


「うん、ひどかったよ。私物を隠されたり、暴力を受けたり。それに、いじめの主犯格が頭のいい子でね。かなり狡猾にやってたみたいだ。しかも、そいつが桔梗くんと同じ大学に進学しちゃってね……。本当に気の毒だったよ」


「その主犯格って、名前分かりますか?」


「ええと……坂出智也くん。今はどこかのIT企業の社長をしてるって聞いたね」



その後、いくつか質問した後、菊都は言った。

「ありがとうございます。では、私達はこれで」


「お役に立てたかな、刑事さん?」

竪山は少し慌てたように言った。


「ええ、大変助かりました」


「……桔梗くんが何かしたんですか?」


「いえ、とある事件の重要参考人になっただけですよ」


「そうですか……なら、良かった」


菊都と鈴音は会釈して学校を出た。外へ出ると、近くの公園の自販機前で立ち止まった。


「ところで菊都さん。刑事って、どういう意味?」


「教師が他人の個人情報をぺらぺら喋るわけねぇだろ。アポ取る時に嘘ついただけだ」


「それって……犯罪じゃ?」


「まあ、軍需施設に不法侵入してる俺たちはすでに犯罪者だし。それにしても、胸糞悪い教師だったな」


「え?そう?良い先生に見えたけど……生徒のこと、ちゃんと覚えてたし」


「何言ってんだ。いじめ加害者の主犯格まで知ってるのに何でいじめを止めなかったんだよ。あの教師は主犯格が分かるくらい観察してたのに見て見ぬふりし続けたんだよ」


「それは……」


「本当に見て見ぬふりだけだったのかは分からないがな。加担してたか、何かしら協力してた可能性もあるな。なんか妙に焦ってたし」


鈴音の顔が怒りで強張る。


「……私、あの教師、叱ってくる」


「待て。今そんなことしたら騒ぎになるだろ。刑事って嘘ついてんだから。大人しくしてろ」


「でも……!」


「いじめを見て見ぬふりするのは、悪いことじゃねぇ。自分を守る手段だ。誰だって自分が大事なんだよ」


「それでも……!」


「それに、過去のいじめと、今まさに起きてる犯罪。どっちを優先して咎めるべきだ?」


「……わかった。じゃあ、次はその坂出智也って人のところに行くの?」


鈴音は不服そうにしながらも折れた。


「ああ、行くつもりだったんだが……必要なくなった」


菊都はスマホを見せる。加藤刑事からのメールだ。そこには、坂出智也とその取り巻きは全員行方不明。という事実が記されていた。


「じゃあ……次は?」


菊都は腕時計をちらりと見て言った。


「そろそろ時間だな」


そして二人が向かったのは、とある大学だった。

講義が終わったばかりの学生たちが廊下を歩き、ざわざわとした雰囲気が広がっている。その中に菊都が立っているのは、どうしても場違いに見えた。さらに鈴音は、正体がバレないよう深く帽子をかぶりマスクをつけている。不審者感は否めないが、菊都は気にした様子もなく、ある講義室へと向かった。


講義室の前にいた関川に、菊都は声をかけた。


「こんにちは、関川教授」


「おや、君は……以前、路地裏で会った探偵だったかな?」


「探偵ですよ」


「やはりそうだったか。ところで、そちらの子は?」

関川は鈴音に目を向けた。


「ああ、助手です。気にしないでください」


「そうか。で、僕に何の用だい?」


「最近続いている行方不明事件についてです」


「まだ続いているようだね。本当に物騒な世の中になった」


「物騒?犯人の君が怯える必要はないだろう」


「……そう判断した理由を聞こうか」


「勘だ」


「そんな理由で僕を疑うのかい?」


「君は異世界帰りのスキル持ちだろう。俺もだ。君はそこで得た能力を使い、人を殺している。君をいじめていた連中もエネルギー資源研究所にいた職員も全員行方不明。どう考えてもだろ」


「ほう」


「そして君は魔力を溜める魔道具を持ってる。人を殺して魔力を抽出し、それで何か魔法を使おうとしている。内容までは知らんがな」


「揺さぶりをかけて反応を見に来た、というわけか。……実に面白い」


「目的を言え」


「……君は正しさとは何だと思う?」


「は?」


「正しさとは人間にとって都合の良い解釈のことだ」


「何が言いたい?」


「善悪など人によっていくらでも作り変えられるという話さ。そんな世の中を僕は浄化したいんだよ」


「浄化?」


「ああ、僕の目的は“人類の選別”だよ」


「選別?どうしてそんなことを?」


「異世界に行く前、僕はいじめを受けていた。思い出すのも嫌なほどだ。特にいじめで絶望することはなかったがな。だが、一番絶望したのは、カラスにいじめられている猫が助けられているのを見たときさ」


「猫が? それがどうしたの?」

鈴音が首を傾げた。


「僕がいじめられている時は誰も助けなかったのに、猫はいじめられていたら助けられる。つまり、人は“見た目の良いものだけ”助けるんだ。内面なんて見ていない」


「それで、人類選別を?」


「ああ。だが内面の美しい人間だけを残すには、内面の醜い人間を炙り出す必要がある。そのためには、人を窮地に追い込まなきゃいけない。人の本性が見えるのは、そういうときだからね」


「……要は?」


「僕は召喚魔法を使い、異世界のモンスターをこちらに呼び出す。そして、助ける価値がある人間だけを救い、不要な人間は切り捨てる」


「そんなことしたら……人類が滅ぶだけじゃないの?」


「それでも構わないさ。僕はまだ“生きていてほしい”と思える人間に出会ったことがないからね」


「急にそんなことを話した理由は?」


「話しても問題はないと判断しただけだ。君たちは僕が殺した人間の死体すら見つけられていない。警察内部にも僕の協力者がいる。……もう、いいかい?次の講義の準備があるんだ」


「時間を取らせて悪かったな。じゃあ、我々もここら辺で失礼します」

菊都は肩をすくめた。


「待て。……なぜ、このタイミングで異世界の話をした?もしかしたら、僕が君を殺す可能性もあっただろう?」


「俺の知り合いの科学者が言ってたんだ。科学者ってのは効率厨だって」


菊都は冬花の顔を思い浮かべながら続けた。


「俺たちを殺すなら君は魔力抽出しようとすると判断した。たが、魔力抽出には魔道具が必要だ。だが今、君はそれを持っていない。それに俺は異世界帰りだと暴露した。警戒もするだろう。だから今ここで俺を殺す選択はしない……そう判断した」


「ほう……さすが探偵」

関川は薄く笑い、それから言った。

「その科学者とやらにも興味が出てきたよ」


「会わせてやりたいね。同じく召喚魔法の研究をしてるから」


「そうか。ならその科学者に伝えるといい。“宇宙航空研究開発機関を調べろ”と」


そう言い残し、関川は講義室を後にした。


しばらくすると、鈴音の変装が限界を迎え、学生に気づかれかけて騒ぎが起きた。二人は大学の裏手から急いで離れ、菊都の家へ戻った。


家に到着し、リビングのドアを開けた瞬間、二人は固まった。


フローリングに、藤麻が大の字で倒れていた。

一方、冬花はイヤホンで動画を見続け、まったく動じていなかった。


「……どうした?」


菊都が尋ねると、藤麻は顔だけこちらに向けて答えた。


「ワープ装置の機材……片付けてたんですけど……量が多すぎて……疲れ果てました……」


「そうか。よく頑張ったな」


軽く肩を叩くと、藤麻は再び床に沈んだ。


「ところで冬花、重要な情報を取ってきた」


「重要な情報?」


冬花は画面から目を離さずに返した。


「冬花さん。私たち……関川と直接話してきたの」


その言葉で、冬花の手がピタリと止まった。


「直接? そんなの不可能よ」


「不可能? なんで?」


「これを見て」


冬花はパソコンの画面を回転させた。

そこには、関川が英語で講演している映像が映っている。


「これがどうした?」


「アメリカで開催中の学会の“ライブ映像”よ」


「……は?そんなわけねぇだろ。俺たちは、ついさっき関川と会って話してきたんだぞ?ここに戻るまで一時間も経ってないんだぞ!?」


冬花は眉をひそめる。


「……何を言ってるの?」


「だったら……俺たちは、いったい“誰と”話してた?」


その一言が、静まり返った部屋に落ちた。

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