月下美人の能力
父が消え、その場で俯く小麦にディンブラが近づき、背を摩る。
「父さんが・・・本当の父さんじゃなかった・・・。俺は・・・拾われたんだ・・・」
ディンブラは何て言葉をかければいいのかわからなかった。
「しかも、死んでた・・・。ずっと探していたのに・・・」
慰める言葉をかけるかわりに、小麦を抱き寄せる。
「でも!どこかに母さんがいるんだ!それと、もう1人の本当の父さんも!!」
小麦が必死にディンブラに語りかけた。
ディンブラも頷いてあげる。
「まだ希望があるんだ!」
「そうだよ!君のお父さんが言ってたように、本当の親に会うべきだ!」
2人で話し合っていると、倒れる音がした。
振り向くと月下美人が倒れている。
「月下美人!!」
月下美人に駆け寄り起こすと、荒い呼吸に大量の汗をかいていた。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・。ごめんね・・・。ちょっと・・・休むね・・・」
「月下美人!!」
必死に名前を読んだが、そのまま気絶して起きなかった。
2人は月下美人を家まで運び、ベッドに寝かせた。
「小麦・・・くん」
「月下美人・・・」
月下美人が目覚め、小麦の頬に弱々しく触れる。
その手を握ってやった。
「私ね、死んだ人の魂を呼んで、お話できたり触れたりできるようにする能力があるの・・・」
小麦が心配そうに月下美人を見つめる。
「その特殊能力を使って、小麦くんにお返しをしたかったの・・・」
「そんなの気にするなよ・・・。模擬結婚式は俺がやりたかっただけなんだから」
心配そうにする小麦を優しく見つめた。
「結婚式だけじゃないよ。いつも私とお話してくれて嬉しかったの」
小麦を抱きしめる。
「朝起きれば今日も小麦くんと会えると思うと、毎日楽しくて楽しくて。それまではずっと、淡々と過ごして白黒みたいな世界が、毎日がきれいでにぎやかで・・・色鮮やかになったの」
小麦も抱きしめ返してやる。
「体調、大丈夫なのか?」
少し離れて小麦を見た。
「・・・ちょっと大丈夫じゃないかも。この能力を使うと、凄く体力と魔力を使うの。1人呼ぶと1日起きれなくなっちゃう。そもそも、私の体が弱いのってこの能力のせいなの・・・」
それを聞いてまた心配そうにする。
「一族の中から、たった1人だけこの能力を持って生まれる人がいるの。その能力を持った人が死んだら、また新しく生まれる一族の血を引く子どもの誰かがこの能力を持って生まれる・・・この繰り返し」
月下美人は目を伏しがちに話していた。
「死んだ人に会えるなんて能力だから、こぞってみんな使いたがるの。学者やお偉いさん以外にも、もう一度家族や親しい友達に会いたい人も・・・。この能力を持って生まれた子はみんな体が弱いのに、多くの人が沢山使おうとするから早死にしちゃうの」
伏せた目が、さらに憂いた表情をする。
「中には誘拐されて、高値で売買された人もいるって聞いたことがあるわ・・・」
それを聞いて、小麦がもっと不安気になる。
「だけど、ある人が私を住んでいた町から離して、ここに連れてきてくれたの。ここは空気も綺麗だし、療養も含めて能力も使わないようにって・・・」
「そうか・・・。ごめんな。そんな能力を使わせて・・・」
申し訳なさそうな小麦に対して首を横に振った。
「ううん。私がやりたかったの。小麦くんの為に!」
小麦が微笑む。
「さっきの俺のマネ・・・」
月下美人も微笑んで返した。
「私のためにありがとう、小麦くん!」
「こちらこそありがとう、月下美人!」
2人が見つめ合って微笑んでいる。
ディンブラもそんな2人を見て困ったように笑った。
「僕、お邪魔だったかな?」
翌朝、小麦が起きた頃には他のみんなはすでに起きていた。
「おはようございます、小麦さん!」
ロルロージュが元気に挨拶をする中、まだ眠た気な目をして頭を掻きながら謝る。
「ごめん・・・。また寝坊した」
リビングにはディンブラも葵もいた。
「おはよう、小麦」
「おはよう・・・」
ディンブラが少し言いづらそうにしていたが、意を決して口を開いた。
「あのね、みんなにお願いがあるんだ」
3人がディンブラを見る。
「僕はある人を探している!」
「人探し?」
「そう。ずっと探しているんだ。そこで、葵くんと小麦の2人にはrossoとbiancoに入って、その人探しのお手伝いをしてほしい!」
突然の申し出に、3人は緊張した面持ちでディンブラを見た。




