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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
やりたい事
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環境の違い

「ねぇ・・・今の子達は?どうして君に殺されたのに・・・君に会えてあんなに嬉しそうだったの?」

空を見上げながら寂しそうにディンブラに答える。

「・・・あの子たちな、俺が魔王軍の時に襲った街にいた子ども達なんだ」

ディンブラが黙って小麦の話を聞く。

「こんないい場所で生まれ育ったから、あまりわからないかもしれないけど、世の中にはどうしても抜けられない苦しみの輪の中でしか生きられない人達がいるんだ」

この天国のような美しい花園とは真逆の、かつて生まれ育った荒廃した町並みを思い出す。

毎日殴られ、ロクな食事もできず、幼い小麦でさえ働きに出ていたが、働いても働いても抜け出せない貧困の中で過ごしたのだった。

それを、あの子ども達を見て思い出していた。


小麦がうどんとして全盛期だった頃、魔王軍が国からの依頼や、領地拡大の為に街を襲うことは多々あった。

そういった場所はだいたいスラム街。

治安の悪さの改善や、土地開発をしたい富裕層が貧しい人々を追い出すために依頼してくる。

その時に率先して駆り出されたのはうどん率いる機動隊だ。

当然のように住民たちも立ち向かってくる。

そこに容赦なく魔王軍として、任務を遂行していた。

なぜなら、それがヒーローの姿だと思っていたからだ。

貧困の子ども達を魔王軍が保護する。

ご飯も家も勉強もさせてあげられる。

逃げ場の無い家で大人に暴力を振るわれることもない。

それこそが正義だと確信していた。

かつて、自分がそうしてもらったように。


壊滅した街の中で、きしめんが立っている。

倒壊した家屋から音がしたので、近寄って急いで瓦礫がれきをどけたら、その下から幼い子が出てきた。

「おい!大丈夫か!?」

必死で瓦礫がれきを掻き分けて、子どもを抱き上げた。

しかし、腹に瓦礫の破片が刺さり、足も真っ青で壊死えしし、助かる見込みのない程大量に出血している。

「誰・・・?」

子どもは弱々しい笑顔でうどんの顔を触る。

「真っ白・・・天使さん?」

その冷たい小さな手を握って、優しく微笑む。

「違うよ・・・。正義のヒーローだよ」

子どもはまた笑いかけた。

「助けに・・・来てくれたの?毎日、すっごく痛かったけど・・・今はね、痛くないの・・・お兄ちゃんが・・・取ってくれたの?」

見ると体中アザだらけだった。

ついさっきのものではなく、日頃から殴られているようなアザである。

また笑顔で子どもに話しかけた。

「家族は?」

「お父さんも・・・お母さんもお空にいるの・・・私が生まれてすぐ・・・お空に行っちゃったって。おじさん、おばさんといるの・・・」

その子の言葉に涙を我慢しつつ、がんばって微笑んであげる。

「そうか・・・すぐに会えるよ」

「本当?」

優しくうなずいて返す。

「あぁ、会わせてやる。・・・辛かったな」

「ありがとう・・・お兄ちゃん」

子どもの細い首に手をかけた。

「泣いてるの?」

「悪い・・・。大丈夫。苦しくないよ」

うどんは指に力を入れて、一瞬で落とした。

子どもの手から力が抜けていく。

そして小さな体を丁寧に持ち上げた。

魔王軍の島に戻り、穴を掘って、自分が命を奪った子どもや任務で亡くなった部下を入れて自分の能力で焼いてあげていた。


「恵まれた環境で育ったのが悪いとは言わない。ただ、俺達みたいな生き様もあることを知ってほしい・・・」

しかし、その後に小麦は自信無さそうに続ける。

「でも・・・俺があの子たちにやってあげたことって、あってたのかな?」

今にも泣きそうな声でつぶやく。

「僕は・・・小麦がしたことの正しさはわからない。でも、助かる見込みの無い子が・・・これまでもたくさん辛い思いをした子たちが、最後に誰かに救われたと感じられたのは、せめてもの救いなんじゃないのかな?」

ディンブラは、黙ったままの小麦の背中を見ていた。

すると、また別の光の粒が空を舞い、目の前に降ってくる。

次に現れた3人に、小麦は一気に笑顔になった。

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