遠方への招待状
本の館では小麦が本を読みながら、ロルロージュと飾りを作っていく。
「順調?」
「痛てっ!」
ディンブラが隣に座る。
小麦は針を指に刺してしまい、指を舐めていた。
小麦の縫ったガーランドを持ち上げて見る。
ガーランドとは結婚式の定番の装飾の一つで、紐にいくつかの布を縫い付けたものである。
その布一つに対して、一文字が書いてあり、広げると文章なり単語なりになっている。(例:happy weddingやjust marriedなど。あとはこれらの言葉の最初と最後にハートマークもあったりする)
歪な仕上がりのお手製のガーランドを見て、ディンブラが微笑んだ。
「月下美人、きっと喜んでくれるよ!世界一の挙式になるね!」
「おう!偽物だけど、挙式は豪華にしてやるんだ!」
小麦が読んでいた本に目をやる。
「式の事とかわかった?」
「そうだな、なんとなくは掴めた!要は何に愛を誓うか、だろ?人か神か」
「もう一つ、ここには妖精に誓う精前式って言うのもあるよ!」
「精前式?エディブルの文化?でも、確か結婚ってしないんじゃ・・・」
小麦が不可思議そうに首を傾げる。
「少ないってだけで、0じゃないよ!精前式は妖精を呼んで、愛を誓うんだ!妖精の前で愛を誓った2人は永遠にエディブルの妖精がその愛を守ってくれるんだって!」
「それって誰でも呼べんの?」
「うん!ココで生まれた子達はみんな呼べるかな!」
「へー!でも、今回は模擬挙式だし、人前式かな」
「そうだね!」とディンブラがにこやかに返した。
「月下美人のドレス姿、楽しみだね!」
「絶対綺麗だぞ!それに、撫子の事だから凄く可愛いのを作ってくれるさ!!」
それから、自分の作ったガーランドをロルロージュと持ち上げ苦笑いをする。
「俺と違ってな」
ディンブラもそれを見て苦笑いをした。
挙式の3日前、メリリーシャから大使達が帰ってきた。
「え!大使達まで呼ばれたの!?」
「久しぶり!」
大使達が月下美人の模擬結婚式の為に帰って来たと言うのだ。
「小麦は?」
リントンが見渡すも、主催者の姿がどこにも見えない。
「小麦なら今、準備で頑張ってくれてるよ!」
「みんな、ご苦労様!疲れたでしょ?女子達がいつもの広場でお茶を用意してくれてるよ!」
ニルギリがマタリを引っ張って行く。
「ヘイヘイ!落ち着け落ち着け!俺らのペースで行かせてくれや」
「みんなに久しぶりに会えるの楽しみだなー!」
ぞろぞろとついて行った広場では女子が迎えてくれた。
「みんな、久しぶり!」
「お疲れ様〜!」
「ゆっくりしてね!」
口々に出迎えてくれる女子を見るなり、マタリが額に手を当てて嘆き始める。
「あぁ!俺はなんて罪な男なんだ!!」
一番近くにいた朝顔の手を握って腰に手を回した。
「こんな可憐な花達を置いて他所の土地に住むなんて!!」
「わわっ!よしてよ、マタリ・・・」
朝顔が照れていると、そこへ葵とディンブラが来た。
「メリリーシャからわざわざご苦労様!」
「ごめんね、ウチの小麦の思いつきで呼び出しちゃって」
マタリが体勢を整えて振り向く。
「ニルギリのハヤブサが招待状を持ってきた時はかなり驚いたよ」
ディンブラが申し訳なさそうに苦笑いをしていると、マタリが思い出して手紙を2通渡した。
「そうだ、これ。ディンブラ宛てに届いてたよ」
「え?ありがとう・・・」
礼を伝えてから受け取り、シーリングスタンプの紋を見てほんの少し、目を見開いて反応した。
葵が手紙を真剣に見るディンブラを不思議に思っていると、そこへ小麦がやって来た。
「よ!お疲れ!」
「お疲れじゃねーよ!」
少し呆れながらマタリが小麦に返す。
「小麦、準備は進んだ?」
「僕達にも手伝えることありますか?」
「僕は手伝わないけどね」
協力的なリントンとパトロックに対して、非協力的なロマの頭を小麦がいじくり回す。
「なんだとー!」
「うっさい!やめろ!」
そうして戯れていると遅れてビストートがやってきた。
「おい、小麦!」
その場にいた全員が異様な殺気を感じ、ビストートに振り向いた。




