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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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キッズたちのホットな話題

そんなこんなでみんなで話し込んでいると、店の扉が開いた。

「すいません、今日は貸し切りで・・・って、お前かよ」

ビストートが慌てて出入り口に駆け寄ったが、顔をのぞかせたのはシスターだった。

「俺たちも!」「いるよ!」とさらに顔を覗かせたのはジャトロファとソルガムだ。

「店休日だっていうのに何やらにぎやかだったから覗いてみたの!」

そう言って入るシスターに手を払ってみせる。

「帰れ帰れ!今日は貸し切りなの!!」

そこに幸福の王子がにこやかに近寄って来た。

「やぁやぁ!久しぶりだね、みんな!」

「幸福の王子!」と3人が口を揃える。

「てか、パーティに大使やロザのみんなまで!」

「勢揃いだな・・・。一体、今日は何の日なの?」

「てか誘われてないけど?」

そんな3人に言い返す。

「今日は親睦会しんぼくかいみたいなもんだよ。犠牲の魔女、幸福の王子のな」

すると3人は目を丸くしていた。

「ま、魔女!?」

「やっぱり、名前が変だとは思ってたけど・・・」

「大丈夫かよ?」

「おう、カルト集団よりはよっぽど大丈夫だよ?」と喧嘩腰のビストート。

そんな中、急に店の奥にまでさがって身を潜めた葵。

そんな葵をひじで突いて小麦が行くように促す。

「ほら、葵さまの出番だぞ」

「うるさいなぁ・・・。行かないってば」

その様子を見たアスタが話に行く。

「葵がさ、今回の企画してくれたんだよ!ロザの一族とかも呼びに行ってくれたし!」

「えぇ!?葵さまが!?」

「なぁ、葵!!」と奥に向かって大きな声で呼びかける。

「あいつ!!」

「もう隠れられないからさっさと行けって!」

小麦に押されて渋々出て行く。

「ひゃぁっ!!あおあお、葵さま!!」と3人揃って口元に手を当てて赤面するいつもの反応。

「あの、この方は魔女ですがとても無害なのですよ。事実ディンブラがお世話になったようで、その恩返しも兼ねて今日は開催いたしました」

そうは言うが、納得しないジャトロファとソルガムが言い返す。

「お言葉ですが葵さま!!魔女というのはどんな内面の凶暴さを持ち合わせているのか、わかったもんじゃないのですよ!!」

「そうです!我々が信仰していたカラの魔女さまも、他所の地域では恐怖の対象だったのです!!」

そんな2人にシスターが前に出て怒る。

「何てことを言うの、あなたたち!!葵さまが無害だとおっしゃっているのよ!!つまりこの方は無害で善良な魔女なの!!葵さまが青空を見て黄色だと言ったら、その空は黄色なのよ!!この教えを忘れたの!?」

まるでどこぞの国の某組織が拷問時に用いるようなこの文言は、もちろん葵教の教えである。

「お前あんま権力無いのな」と小麦が言うと、苦しそうな顔をしていた。

「そうだよ!俺にはないけど、シスターに権力があんの!!俺の話はシスター以外誰も聞いてないの!!」

幸福の王子が驚いたように葵に言う。

「おぉ!あの教会でまつられていたのは葵だったのか!!」

「祀られてるだけだ!別に俺はこの集団に関与はしていないからな!?てか勝手に盗撮写真使われてるし!!」

一応釘は刺す。

「まぁまぁ、わかっていただけたところで、みんなも一緒にどうだい?」

幸福の王子が促すと、3人は笑顔で「ぜひ!」とうなずいた。


そして加わった3人にキッズたちが近寄り、ホットな話題、赤い青年と大鷲の伝説の話を持ちかける。

「ねぇねぇ!知ってる!?」

「赤い青年と大鷲の伝説!!」

ロマとメアが聞くと、3人は知っていたようで頷いた。

「知ってるよ、それ!ウチの集落には無いけど、近くの集落にはなんかあったよな?」

「伝説ばあちゃんが語ってたよな?たしかあのばあちゃんが壁画を自分で作ってたよ!」

「壁画にまでなってるんだ!!」

「すごっ!!」

ますます目が輝く。

「私も知ってるわよ!私は今、ここに滞在してるけど、元は転々と各地を回っていたからね!いくつかの地域で聞いたわ!」

そこにイヴが幸福の王子を引っ張って来て話す。

「幸福の王子はね、魔女の強い魔力から退治されそうになったんだって!!」

「え!?会ったことあるの!?」

「てか大事おおごとじゃないか・・・」

心配するジャトロファとソルガムに、優しく答える。

「なんてことないよ!みんなと同じで話し合えばわかってくれたさ!」

それから感慨深そうにつぶやく。

「彼らは魔女とキメラのコンビになって時が短いと言うのに、そんなにも有名になっているのはすごいね・・・」

「え?そうなの?てか魔女なんだ」

「めちゃくちゃ長いのかと思ってた・・・」

そう言うジャトロファとソルガムにメアが答える。

「そう思うのって伝説ばあちゃんの壁画のせいなんじゃないの?」

「あ、そっか!」とみんなで笑う。

シスターが次いで聞いた。

「幸福の王子は今、カラの魔女が住んでいた家にいるのよね?」

「そうだよ、よかったらみんな今度遊びに来てくれ!」

嬉しそうに3人とも頷く。

「僕たちも行っていい?」と聞くロザの一族にも頷き返した。

今回の幸福の王子への恩返し、人の縁を繋ぐというディンブラとビストートの狙いは成功したようだった。

2人で嬉しそうに軽く拳を突き合わせていた。

以降、週一のビストートのみならず、誰かが頻繁に訪れるようになり、幸福の王子も喜んでくれたと言う。

時にはロザの少年たちのお手伝いをしたり、逆に家付近の手入れをロザの少年たちや大使が手伝いに来たりと、互いに助け合うようになった。


ちなみに、キャンディはディンブラ、アッサム、ダージリンを連れて食事会の後すぐに家に行った。

家を褒める仲間をよそに、家に一切興味のないキャンディは蛇の姿を催促し、外で変身してもらっていた。

美しい白さに目を輝かすキャンディ。

「す、すごい!!この顔の形!!ナメラだ!!スジオナメラ!!これは・・・キングスネーク系か?柄も無いしアオダイショウ?でもちょっとどこか違うような?でも何より、アルビノが綺麗!!」

もうこの爬虫類オタクの世界になるとどの遺伝子が作用しているのか(幸福の王子ならアルビノという白化個体の遺伝子がどれほど特徴として現れているか)とか、柄なり目なりを見てどうのこうのとなってくるので、足を突っ込む際には気をつけよう。

途方もない遺伝子の追いかけっこの輪に入る覚悟が必要だ。

ちなみに遺伝子と書いてモルフと呼ぶ。

会話の中でモルフと使う人は爬虫類を飼ってると容易に推察できるが、刑事でもなければこんなプロファイリングは不要である。

あと蛇は懐かない。

それも承知の上で愛してあげる覚悟もいる。

だが爬虫類にはどハマりするだけの魅力がたっぷりとあるのは間違いない。

「魔力を与えられて魔獣化した後に魔女化した際に色々と変わってしまってね。主に体が真っ白になってしまったよ。あの方のようにね」

キャンディは聞いているのかいないのかわからないくらい夢中で蛇の体を触りながら見ている。

「蛇時代に食べてた餌は?」

「色々食べていたよ。ネズミに虫にトカゲに・・・」

「蛇は?」

「・・・あぁ、そう言えば食べていたよ」

目を輝かせて幸福の王子を見た。

「キングスネークだ!!キングスネーク系は蛇を食べるんだよ!!ガラガラヘビの毒にも耐性あるし、蛇食いで有名だから蛇の王様なんだ!!」

「そうか、そうか!わかってよかったよ!」と嬉しそうに頷くが、そんな幸福の王子よりも嬉しそうなキャンディ。

「あの・・・とぐろの中に入っても・・・?」

上目遣いで目を潤ませながら聞いてくるキャンディに快く頷く。

「いいよ」

塒でキャンディを包んであげると、中から「し・・・幸せ・・・」とつぶやきの後に、さらに幸せのため息が聞こえた。

なかなか往生際悪く帰らないでいるキャンディは夕方になっても幸福の王子にしがみついていた。

「嫌だ!!俺は!ここに!残る!!」

「ダメだよ!!エディブルに帰るよ!!」とディンブラが大きな声で言いながら、みんなでキャンディを引っ張る。

「エディブルは捨てた!俺はこれから幸福の王子と住むんだ!!」

「おい!常にその格好じゃないんだからな!?」とアッサムが言う。

「そうだよ!それにエディブルにいるキャンディの飼ってる子たちはどうするのさ?」

ダージリンの言葉に渋々幸福の王子から手を離した。

幸福の王子も苦笑いしながら人の姿に戻る。

「こんなにも蛇を愛してくれているなんて嬉しいよ。キャンディ、またおいで」

すると、目をまた潤ませて幸福の王子を見上げる。

「あの・・・もし今度脱皮したら皮ください・・・」

「アホか!あの巨体の皮をどうやって持って帰るつもりだよ!?」

アッサムのごもっともなツッコミにもくじけない。

「目だけでも・・・」

※蛇は目まで脱皮するので、その様子から”目からうろこ”の語源となった。

「魔女になってから脱皮は数十年に一度しかしなくなったけど、機会があれば取っておくよ・・・」

最後の最後まで幸福の王子を困らせたという。


こうして、小麦と葵のメリリーシャ償いのお手伝い期間は無事に終わった。

最後は予定にないディンブラのお願いであったが、もう一つの目的だった小麦や葵のメリリーシャでの人間関係構築は2人のがんばりによって成功した。

そして、エディブルの花園へと帰ることとなった。

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