親睦会
そして、幸福の王子がサンスベリアに連れて来られた今に至る。
店内に入ると、多くの人がいた。
「みんな!紹介するよ!こちらが犠牲の魔女、幸福の王子だ!」
ディンブラの紹介に幸福の王子が頭を下げる。
「紹介に預かりました、幸福の王子です」
穏やかな口調と笑顔にみんなの緊張感が緩む。
「なんかさ、思ってた魔女と違うよね!」
「もっと怖いのかと思ってた!」
「前にパーティがウチに連れてきてたよね?」
「この前連れて来た時もこんな感じだっけ?」
「わかんない!覚えてない!」
そう言い合うのはロザの一族の少年たち。
「初めまして!小麦だ!」
「俺は葵です!」
「僕はロルロージュです!」
3人が近寄って握手をすると、嬉しそうに笑顔を向けた。
「ディンブラと仲良しの3人だね」
「仲良し・・・」「まぁ・・・」と2人の歯切れが悪いのをディンブラが頬を膨らまして睨む。
「別にそこは仲良しでいいだろ!」と言い合うのをよそにロザの一族たちが挨拶に行く。
「僕たちはロザの一族です!」
「あぁ、この前お家にお邪魔させてもらったね!そうそう、ビストートがくれた君たちのバラが入った木の実のジャム、とてもいい香りがして美味しかったよ!」
その言葉に5人が嬉しそうに顔を見合わせていた。
「こんにちは、我々はエディブル大使館の大使たちです!」
マタリが挨拶に行くと、こちらにも笑顔を向ける。
「初めてお邪魔させてもらった時は魔女だと驚かせてしまったね。今日は足を運んでいただきありがとう!」
頭を下げると、エディブルの3人も前にやって来た。
「俺たちはエディブルの花園から来ました!」
「そうか、そうか!じゃあディンブラのお友達だね!」
そう言って1人ずつに握手をしていると、アッサム、ダージリンはさっと済ませたのに対し、キャンディは目を輝かせて興奮気味に手を握って幸福の王子の顔を見ていた。
手のひんやりとした感覚に覚えがあるのか、嬉しそうに一度息を大きく吸って、さらに両手で包むように握った。
「キャンディだ!」
「あぁ、君か!無類の蛇好きさんは!」
笑顔でさらに嬉しそうになる。
「あの、蛇の姿を見てみたいです!」
「ここで変身したらお店が壊れてしまうかもしれないから、また今度ね!」
そんなに大きいのかと思うとさらに興奮する。
「もしかして、オオアナコンダか、アミメニシキヘビとか!?10m近くになる!!あの!?」
「いやいや、私はそれらとは違うよ。魔女になる前はもっと小柄な一般的な蛇だったんだがね、名前まではわからないんだ」
好きな分類の未知への好奇心なのか、鼻息荒くする。
「み、見てみたい!!」
「うん!ぜひ今度姿を見て種類の判別を頼むよ!」
アスタがそこに割って入る。
「俺たちは旅の時に一晩幸福の王子の塒の中で眠らせてもらったんだ!」
すると、急にアスタの胸ぐらを掴んで大きな声で聞く。
「それは本当か!?蛇の塒の中で寝る!?夢のようじゃないか!!」
「う!ぐぅぅ!!」と苦しそうにもがく。
そこでビストートが料理を運んできた。
「みんな!料理ができたからたくさん食べてくれ!!」
ビストートが運ぶ料理に目を輝かせるみんな。
ビュッフェ形式にして各自自由に食べられるようにした。
料理を運び終えたビストートに幸福の王子が礼を言いに行く。
「ビストート、休日だと言うのにありがとう!君のお店でみんなで食事ができてとても嬉しいよ!」
「大したことないよ!突然だったから余り物しかないけど、腕には自信があるんだ!今日は普段はメニューに出さない凝った料理も作ったし、たくさん食べてくれ!!」
幸福の王子が笑顔になる。
「ありがとう!お言葉に甘えさせてもらうよ!」
前菜からメインディッシュまで一気に出し切り、ビストートも食事の輪に加わる。
「料理お疲れ様、ビストート!せっかく休みの日なのにごめんね。でも食事会が実現できて嬉しいよ!ありがとう!」
ディンブラが労いの言葉をかける。
「いやいや、こっちも余り物の消費ができてよかったよ!それに、幸福の王子にみんなを会わせて、みんなであの家に遊びに行くようにすれば、たしかに寂しくないかもな!」
「うん!幸福の王子もみんなと関われて嬉しそうだし、よかったよ!」
2人して幸福の王子の方を見ると、爬虫類オタクのキャンディに質問責めにされていた。
幸福の王子の表情からはちょっと困った様子も見える。
キャンディのことだ。
きっとマニアックな質問をしたりして困らせているに違いない。
「なんか、キャンディとしか話せてないけどな」
「僕が止めてくるから、ロザの一族のみんなとか連れてってあげて」
呆れながらキャンディを引き下げる。
店の端で揉めるキャンディとディンブラ。
その間にロザの一族たちを連れて行く。
「幸福の王子!ロザの少年たちだ!」
「あぁ!君たちとはもっとお話しがしたかったんだ!」
パッと表情が変わって笑顔になる。
「僕たちも話したかったんだ!」
メアが言うと、小麦と葵とロルロージュも近寄って来た。
「おっす!なんかリトルの家に住んでるって?」
小麦が聞くと頷いた。
「あぁ、彼の家をそのまま引き継いだから、かなり趣味がリトル寄りなのだがな、その光景も毎日楽しんでいるよ」
すると、下から少年たちが話しかけてくる。
「ねぇねぇ!幸福の王子はリトルの家に来るまでに色んなところ旅してた?」
「僕たちは荊姫さまとたくさん旅をしたんだよ!!」
何度も頷き、笑顔で答える。
「あぁ、いっぱい行ったよ!しかし、一度落ち着きたくなってね。それでパーティの子らに家探しを頼んだんだ!」
「あのね!小麦さんも葵さんも赤い青年と大鷲の話知らないんだって!」
「僕たち色んな場所で聞いたよ!」
「幸福の王子は知ってる?」
「あぁ、あの2人の話は各地で聞くね!」
それにはロマが反応して近寄って来た。
「それってさ、どんなの?」
「赤い青年が大鷲に乗って降りて来て、人々を救うんだ!」
「地盤沈下から軍隊を守ったり、洪水で沈む村の住人を避難させたり!」
ロマの目が大きく見開き、輝き始める。
「それって本当にあったの!?僕、前に伝説とか伝承の本で読んだよ!!」
ピンピとスプライが幸福の王子に聞く。
「ねぇ、幸福の王子は会ったことある?」
「荊姫さまはあるんだって!」
「あぁ、あるよ!私の魔力を察知して、悪いものだと思われたみたいで初めは殺気立っていたけどね」
災難にも、魔女同士の対決を繰り広げるところだったという。
「え!?大変じゃない!」
「どうなったの?」
ガートルードとイヴが聞くと、苦笑いから笑顔に戻った。
「話し合えばわかってくれたよ!悪いものではないとわかってくれたみたいだ!」
「よかったね!」と胸を撫で下ろすメア。
「そんな有名なんだな。アスタ、知ってるか?」
「え?何?」と葵に声をかけられて近寄ってくる。
「赤い青年と大鷲の話だよ!」
「あー、知ってる。伝説とかの本にちょこちょこ載ってるよな?でも他でも見たよ。たしか・・・そうだ!ウェストポートにある魔道具展示館の整理を手伝ったんだけど、その時に伝説の大鷲の羽根ってあったよ!現物も倉庫にあったし!」
「え!?嘘!?すごっ!!」
これにはキッズたち大興奮。
アスタもなんとなく鼻高々だったとか。
「なんでアスタだけそれ見たの?」
「そうだよ、ズルい」
話を聞いていたキャメリアとシャロンも近づいて来た。
「だってみんな、それなりに読んでさっさと探しに行ったから。俺は全体的に読んでから探してたからさ」
「アスタってズルいよね。本読むの早すぎるし、しかもずっと覚えてるよね」
「そういうカンニング紛いの能力ってテストに響くから変な能力あるなら捨てた方がいいよ」
キャメリアもシャロンもかなり理不尽な物言いをふっかけてくる。
「捨てるってなんだよ!生まれ持ったもんだし!!てか・・・」
そう言いかけてから葵と小麦を横目に睨む。
「どっかの魔王軍とかいうのが教育廃止したからテストなんてなかったけどな!!」
睨まれた2人はそっぽを向いていた。
「あぁ、そうか、そうか!アスタはあの賢いリガトーニの一族だったな!」
「え?なんで知ってんの?言ってなくない?」
不思議そうに見上げると、微笑みながら答えた。
「前にアスタに触れた時に伝わって来たよ。大変なことをよく乗り越えたね」
「まぁ・・・」とだけ返す。
「リガトーニの能力だね、その本を読む早さと記憶力。いいモノを受け継いだ。大事にしなさい」
そう言うと、アスタの頭を撫でた。
撫でられたアスタはキャメリアとシャロンを「見たか!」と言わんばかりに睨み散らしていたが、2人は「ふんっ」と鼻を鳴らしながらそっぽを向いていた。




