グッと堪えて大人になる少年たち
ロザの一族が住む屋敷に訪れたエディブル民のアッサム、キャンディ、ダージリンはお茶でもてなされていた。
「すっごい家住んでんな!」
3人とも家を見渡す。
「この吹き抜けと、上から下までガラス張りって、珍しいね!」
「家の中に芝生あるし」
ロザの一族は鼻高々と胸を張っていた。
「ところで、何の用事で来たの?」
「そうそう!今日みんなでサンスベリアで食事会するんだけど、みんなも来る?」
メアが不思議そうに聞き返す。
「あれ?今日って定休日なんじゃないの?」
「特別に開けてくれるって!」
ダージリンの言葉に「行きたいね!」「楽しそう!」などとみんながはしゃぐ。
「幸福の王子っていうのと仲良くするためらしい」
キャンディの言葉に一気にみんなの表情が固まる。
メアが手を前に突き出して聞き返した。
「ちょっと待って。幸福の王子って前にアスタたちが連れてきた魔女だよね?なんで?」
「なんかディンブラとビストートが仲良くしてるらしいんだよ」
「すごく世話になったらしい」
スプライがアッサムとキャンディのふんわりした説明に言い返す。
「いや、よくわからないよ!だから何だよ!!」
「勝手にそっちで仲良くしたらいいんじゃないの?」とピンピまで腕を組んで言ってくる。
「みんなで行けば楽しいじゃないか!僕たちはロザのみんなとお食事会したい気持ちもあるんだよ!だからこうして誘いに来たんだ!」
ダージリンが気遣いながら言う言葉に渋々、頷きはするが来る気はなさそうだ。
「まぁ・・・そりゃ、みんなとご飯は食べたいけどさ・・・」
「でも魔女がいるのはなぁ・・・」
アッサムが一つ気になる。
「何が問題なんだよ?ロザのみんなも元は魔女の作ったキメラなんだろ?」
「そうだけど・・・例えばだよ?大人でもその人が家族だと近くにいたら安心できるよね?でも知らない大人が近くに来たら警戒しない?」
「まぁ・・・そうだな」
ガートルードが唐突に例え話を始め、それをイヴが引き継ぐ。
「生みの親である荊姫さまって、僕たちからしたらどれだけ強くても僕たちを襲わないって言う安心感があるけど、他の魔女ってその安心感がないんだよね」
「そういうもんなんだな」とキャンディが少し納得したように言った。
しかし、アッサムは納得していない様子。
「でも、俺らは?こうして家に入れてくれるくらい仲良くしてくれてるだろ?」
「君たちは人間じゃないか!しかも無害な方の!」
「基本僕たちキメラは魔法による攻撃が使えるから、人間相手なら対応できるんだよ!」
「でも魔女ってキメラとかじゃ太刀打ちできないくらい強いんだよ!」
言い返してくるみんなにアッサムは肩を竦めてキャンディとダージリンを見た。
3人とも説得を諦めかけていたその時、いつからいたのか小麦と葵が現れた。
「邪魔するぞ!」
「小麦さん!葵さん!」
メアの大きな声にみんなが注目する。
「話は聞かせてもらった!」
「え?いつから?」
「ってか、どうやって入ってきたの?鍵かけたよね?」
小麦が親指で玄関を指す。
「この3人と一緒に入ってきたんだよ」
そして葵は服に貼ったシールを剥がして見せた。
「【忍シール】というノーティーエッグズを使ったんだ。まぁ、こんなもの使わずとも、元隠密部隊隊長の俺なら余裕で忍び込めるけどな!こんなザル警備の一般家庭なんてな!」
何を堂々と・・・。
ノーティーエッグズ【忍シール】
気配を消すことができるよ!
追いかけられて逃げきれない時に使おう!
でも、かくれんぼで使うとずるいからやめておこうね!
ロザの少年たちが不可解な顔を向ける。
「なんで?なんでわざわざ身を隠して侵入するのさ?」
「普通に入ればいいだろ!意味わかんない!!」
口答えする彼らに小麦が一喝する。
「んなもん、おもしろいからに決まってんだろ!!」
「何さ!その理由!!」
だが、エディブル民の反応は違った。
「やっぱあいつらおもしろいよな!」
うんうんとアッサムに頷く2人。
完全に楽しんでいる。
そこを葵が手を突き出して制し、ロザの少年たちに話を聞かせる。
「まぁ、そんなことはどうでもいい!俺たちはディンブラに言われて、ロザの一族をその食事会に呼んでくるようにと言われたんだよ!だから渋々ここにいる!」
「ロザの少年たちの不安は魔女の恐怖への心配だろ?俺らがいるから安心しろ!!」
2人の言葉に説得力を感じない。
「なんだよ、それ?」
「渋々やってる人に説得力なんて無いよ!」
腕を組んで横目で見ながら言われるが、終始元四天王2人は堂々としている。
「おいおい、誰にもの言ってんだ?」
「俺たちは魔女狩り経験者だぞ?」
ロザの5人は口と目を大きく開いて、互いに顔を見合った。
「た、たしかにそうだね・・・」
「え?もしも問題が起きたら狩るの?みんなが仲良くしている幸福の王子を?」
「魔王軍崩壊しても未だにそんなに容赦ないの?学習できないの?」
その質問には軽く首を横に振る。
「それはわからん」
「気分だな」
「気分で狩るな!」とさすがにアッサムがつっこむ。
キャンディが興味本位で聞いた。
「2人は魔女狩りしたって、どんな魔女を狩ったんだ?」
「俺は東の大陸で灰の魔女シンデレラと、蝋燭の魔女キャンドル!」
「俺はカラの魔女チキン・リトルと、ロザの一族の生みの親、牢獄の魔女荊姫!」
葵が小麦の後に「ちなみに荊姫の時は俺はサポートとして待機して、戦闘後動けなくなった当時きしめんの小麦とパルフェを救助した!」と胸を張って答える。
すごく自信満々に答える2人にダージリンが目を丸くする。
「ロザの少年たちの生みの親を?・・・えぐいことしてるね、君ら」
「お前らの方がよっぽど悪だ」
キャンディがズバッと言うが、気にしない。
なぜなら和解は成立しているからだ。
「そんなことはどうでもいいんだよ!ロザのみんな、今日来いよ!」
「俺らも行かされるんだ。たぶん何も無いだろうよ」
ロザの一族がみんな頬を膨らませたり腕組みしたりと不満を露わにしている。
「やだよ!荊姫さま以外の魔女となんか仲良くするもんか!危害を加えられるかもしれないんだぞ!!」
「あー、じゃあ、その時この前言ってたロルロージュ連れてってやるよ!」
「見たいって言ってたもんな!」
ロルロージュを引き合いに出されてやっと渋々頷いた。
「・・・不満しかないけど、行く?」
「まぁ・・・この前荊姫さまの弔い碑作ってもらったしね」
「元四天王と言い、パーティと言い、トラブルメーカーばっかだけどね」
「ビストートにはお世話になってるしね。あとロルロージュは見てみたいかも・・・」
「きっと何もないだろうと信じて行こっか」
不本意だらけだが、約束を取り付けることに成功した。
「俺らも魔女とか本気で面倒くささを感じてるけど、ディンブラにはお世話になってるからって一点だけで行くからさ」
「俺らは一緒なんだよ、参加の動機が」
ちょっと元四天王たちにイラッとした少年たちであったが、それは表に出さないように抑えた。
大人になったのである、少年たちが。




