恩返しの企画
幸福の王子が住む家に誰かが急に訪ねてきた。
今日はサンスベリアの休業日。
いつものようにビストートが遊びに来たのかと思い出ると、ディンブラとパーティだった。
「おやおや、みんな!遊びに来てくれたのか!」
嬉しそうに笑顔になる。
「幸福の王子!久しぶり!」
「今日は前に約束してたサンスベリアに行こ!!」
アスタとキャメリアに引っ張られて目を丸くする。
「あれ?今日はお休みの日ではないのか?」
「特別に貸し切り営業してくれるんだよ!」とディンブラが返す。
「幸福の王子のために特別な料理出してくれるって!」
「ビストートの料理、美味しいんだよ!!」
チョコもシャロンもはしゃいでいる。
にこやかにみんなに囲まれてメリリーシャにあるサンスベリアにまでついて行った。
そして店に到着する。
先頭にいたアスタとチョコが店のドアを開けて大きな声を出す。
「お待たせ!」
「連れてきたよ!!」
店の中からは料理のとても美味しそうな匂いが漂ってきた。
「なんていい匂いなんだ!素晴らしい!!」
嬉しそうに鼻から息を吸う幸福の王子。
ディンブラが呼んで中に招き入れた。
「こっち来て!友達を紹介するよ!!」
笑顔で一つ頷き、中へと入って行った。
幸福の王子を呼びに行く前のこと。
大使館では朝からディンブラが腕を組んで考え込んでいた。
「どうしたんだよ、ディンブラ?」
「何か悩み事か?」
小麦と葵に聞かれて首を捻って答える。
「この前ね、2人がロザの一族のお手伝いに出ている間に、ビストートと一緒に郊外にある幸福の王子の家に行ってきたんだよ!そこですごくお世話になっちゃったから何かお返しできないかなって悩んでるんだ」
そう話すと、小麦がロルロージュを挟んで葵に聞く。
「幸福の王子って?」
すると、ロルロージュが下から「魔女じゃないですか?名前的に」と口を出す。
「えーと、確か・・・郊外のチキン・リトルが住んでいた家をパーティが斡旋したっていう・・・。あ!そうだ!俺とディンブラがウェストポート付近の村で蜂駆除したんだけど、そもそもの繁殖させた元凶だ!!」
小麦が不可思議そうにディンブラを見る。
「え?なんでそんな魔女にお世話になったの?」
「そうだ!蜂の生態系をいたずらに変えたって怒ってただろ?」
葵も同じ様に見てくる。
「うん、それについては謝ってもらったよ。でもその後に良くしてもらったんだ。お茶も出してくれたし。とにかくお返ししたいんだよ!」
内容をあまり伝えずに訴えかける。
その会話を聞いたアスタがチョコに思い出した様に言う。
「あ!そうだ!俺らも幸福の王子にそろそろ会いに行かないとだな!」
「それもそうだね!なんだか放置しすぎたかも!」
そんな2人にエディブル民のアッサム、キャンディ、ダージリンも興味を持って聞く。
「なぁなぁ、その幸福の王子ってどんなの?」
「魔女って何だ?」
「魔導師的なの?シャロンみたいな感じ?」
それには目を丸くする。
「え!?魔女知らないの!?」
「シャロンとは全然違うよ!」
とは言え、魔女の説明がたぶんちゃんとできないであろうアスタとチョコから葵たちが引き継ぐ。
「魔女というのは突然変異で強い魔力を持った魔獣が、人間などを取り込んだ際に体を乗っ取り、体内で心臓と、核という脳に分かれて人間の体で生きている状態なんだ。だから明確に人として生まれた魔導師のシャロンとは全く別の生き物なんだ」
「首切っても死なないしな。再生力を凌駕する攻撃力でやっと倒せるんだ。あと寿命もないし、だいたい取り込んだ人間の見た目から老けない不老の特性もある」
さすが、魔女狩り経験者は語る。
「へぇ、でもそれって別に悪い奴らじゃないんだよな?パーティやディンブラが友達なんだろ?」
アッサムが手で差して聞き返すと、葵が首を横に振って答えた。
「いや、そうでもないんだ。魔女というのは、人間を取り込んだ後に何か人々を苦しめることをしているんだよ。それが魔導師が管轄する魔法局の耳に入って、そこからウィッチコードというのをつけられる。それがついてから世間にこういう魔女がいると知れ渡る」
ダージリンが怯えて、キャンディは気になったことを聞き返す。
「え?じゃあ悪いモノじゃないの?」
「ウィッチコードっていうのが幸福の王子か?」
それには小麦が頷いて答えた。
「そうだな。イメージしやすいからなのか、だいたい童話から取られたりするよ」
「でも別に攻撃も何もされなかったよ。本当にいい人だったんだ!なんだか、最近は1人が寂しいんだって。今までみんな怖がって近寄らなかったのに、パーティとの触れ合い以降孤独を知っちゃったみたい。何とかしてあげたいんだ!」
ディンブラの言葉に、アスタが思い出す。
「そう言えばさ、ビストートのこと話したらサンスベリアに興味持ってたよ!」
「いつか連れてくとかも言っちゃったよね」
ディンブラが2人に前のめりになって聞く。
「それ、本当!?」
「う、うん!」と驚いた様子で頷いた。
「ねぇ、みんなでサンスベリアでお食事会しない?みんな知り合いになれば、誰かが頻繁に会いに行けるからさ!!」
小麦も葵も面倒くさそうな顔をする。
それも当然である。
彼らは魔女を狩ってきた側なのだから。
「なんかわかんないけど、ビストートのご飯食べれるなら賛成!」と真っ先に手を挙げたのはアッサム。
「別に害が無いのなら、魔女ってのにも会ってみたいよね!」
興味津々に言うダージリンの横で、キャンディは無反応をしていた。
「キャンディは?どう?」
「俺は正直魔女とやらが安全なのかわからないから、何とも言えない」
そう言うキャンディに対してアスタが隣に来て話す。
「魔女って元は魔獣って言っただろ?あいつ、蛇の魔獣なんだよ、本当の姿は」
途端に目が鋭くなり、アスタの胸ぐらを掴む。
「それは本当か!?何の種類だ!?パイソンか?ボアか?」
「わ、わかんない・・・!!」
苦しそうにするアスタの横からチョコが入る。
「ね、ねぇ!キャンディが直接見たらどうかな?」
すると急に手を離して目を輝かせる。
「・・・行く!!」
キャンディの参加が決まった。
「他は誰誘う気だよ?」
小麦に聞かれてディンブラが思い出しながら答える。
「うーん・・・あとはパーティの女子2人と、大使たちと、ロザの少年たちかな!」
「結構大所帯だな・・・」
葵は呟くように言った。
「キャメリア、シャロンと大使たちは来るだろうけど、ロザのみんなは難しいんじゃない?」
「そだね。前に家探しの時にすごい嫌悪感示してたから・・・」
アスタとチョコが言うと、アッサムが口を挟んだ。
「じゃあさ、俺と葵と小麦が説得して連れてきたらいいんじゃないか?」
「なんでアッサムも行くんだよ?てか、俺らは行かないからな!」
小麦がつっこむと、アッサムが続ける。
「大使館に遊びに来るから知ってるんだよ。2人が行かないならキャンディとダージリンと行くよ。な、行かないか?」
「行きたい!いつか遊びに来てって言ってくれてたもんね!」
「行く」
喜ぶダージリンと、一言だが前向きなキャンディ。
「じゃあ、俺らはこのまま行ってくるよ!」
「よろしくね!」とディンブラが見送る。
葵と小麦はため息を一つついてソファーに深く座った。




