与太話の伝説
それから、みんなで板状に形を整えた木にペンキを塗っていく。
その間に一つ上がった雑談の話題があった。
「なぁ、荊姫とさ、ずっとここにいたの?」
唐突に聞いた小麦に答える。
「そんなことないよ!」
「一時は転々としてたよね!」
メアとガートルードが答える。
「へぇ、どこ行ったんだ?」
「いっぱい行ったよ!別の大陸とかも何個か!」
「色んな文化に、人に町に!すごく楽しかったね!!」
葵の聞いたことにはスプライとイヴが答えた。
「なんか面白い話ないの?旅の!」
「うーん・・・何かある?」
小麦の聞いたことにはピンピが顎に指を当てて考える。
「あれかな?荊姫さまが遊牧民に乗馬技術教わって、それまで女性貴族の横座りの乗馬スタイルだったのを、跨って乗るスタイルに変えた話とか?」
「何それ?めっちゃおもしろい話あんな」
小麦はメアの話しに興味本位でニヤニヤと笑いながら、刷毛でペンキを塗っていく。
「横座りしていた頃の人なんだな、荊姫は。絵画とかでよく見る乗馬スタイルだよな?よく腰負傷しなかったよな・・・」
葵も心配そうに言う。
「ところでさ、遊牧民って、そんなところにまで行ったんだな。どんな文化、風習があった?」
小麦の言葉にみんなも答える。
「そこではね、崖にある巣から子どもの狗鷲を捕まえて調教して、狩りをするっていう風習があったよ!」
「でもたしか、繁殖できる10歳頃には自然に帰して、また新しい相棒見つけるって言ってたよね!」
「狩りの様子とか見させてもらったんだよ!」
「あと、狗鷲触らせてもらったよね!」
「荊姫様なんて腕に乗せて、狩りまでさせてもらってたよね!」
思ったより原住民との触れ合い多めの思い出に小麦も葵も圧倒される。
「スケールデカイ遊び方してんな・・・」
「これが地球で遊ぶってことか?」
そんな2人にメアが思い出した様に言う。
「あ!そうだ!狗鷲・・・て言うか、鷲と言えば赤い青年と大鷲の伝説!あれ、知ってる?」
「知らない」「何それ?」と2人して首を横に振る。
すると、ロザの5人とも目を丸くしていた。
「え!?嘘!?知らないの!?」
「何ヶ所かで聞いたよね?」
「そうそう!有名だったよ!!またこの話あるんだって思ったよ!」
「場所によっては2人の赤い青年だったりしたよね!」
「2人も色んな場所に任務で行ったことあるんだよね?」
2人とも眉を歪めて互いを見る。
「知ってる?葵?」
「全然知らない。・・・それは一体どんな伝説なんだ?」
5人が顔を見合わせて思い出しながら話す。
「場所にもよるよね!ある所では空から急に降り立ってきた赤髪の青年が、進軍していた隊にこれより先に行ってはいけないと忠告して、揉めていた矢先に、その青年と大鷲の背後で地盤沈下したって話!」
「危うくみんなで落ちる所を助けてもらったとかね!」
「他は鉄砲水で川近くの村が丸々流された時も、それを察知して住民を避難させたとか!」
「しかも色んな国の言葉を青年が使い分けたとか!」
「他にもたくさん伝説があって、どこかの国では絵本にもなってたよね!」
小麦と葵も顔を見合わせる。
「そんな有名なんだな。全然知らんわ」
「てか、赤髪ならロザの一族もだろ?もしかして自分たちのこと言ってんの?」
葵がいたずらっぽく笑って言うのに対し、ロザの一族同士、薔薇の花弁のような色の髪を見てつい笑ってしまった。
「そうだ!その大鷲が魔獣というか、魔女だったんだよ!人間の姿をしたら赤い髪の青年だったんだって!」
「赤い青年の方も元は人間だったんだけど、大鷲の眷属になってキメラ化したんだ!その時に髪は同じ赤になったんだって!」
「そのキメラ化のさせ方を聞きに荊姫さまの所に来たんだよ!!」
「そうそう!僕たちがいるからね!僕たちを作ったっていう噂聞いたんだって!」
「ま、その時には僕たちは別の場所にいたから直接は会ってないんだけどね!」
ロザの一族の話を聞き、「へぇー」と答える。
「そんな伝説あるんだな」
「世の中広いな。今後どっかで聞くかもな」
2人は少年たちの話を与太話程度に聞き流した。
そんなこんなでみんなでワイワイと協力しながらも夕方には完成した。
屋敷内にある吹き抜けの、いつもお茶を飲むバラ園に大きめのドールハウスのような可愛らしい家を建てた。
中には太陽光に弱い品種のバラを植え、ティーカップが置けるだけの小さなテーブルと、小さな椅子を置いた。
最後にメアが紅茶を注いだティーカップを置く。
「これでよしっと!」
「完成だー!!」とみんなで跳ねて喜んだ。
ドールハウスのできに大工さんもご満悦の様子で何度も頷く。
ドールハウスの扉を開けたまま、みんなでお茶をした。




