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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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犠牲と恩返し

ディンブラが目を覚ますと、ビストートと幸福の王子が談笑していた。

ゆっくりと体を起こす。

まだ意識がうつろで、ぼーっとする。

一点をじっと見ていると、ビストートが話しかけて来た。

「ディンブラ、大丈夫か?」

「ビストート?・・・僕眠っちゃったの?」

肩にかかったブランケットを手に取って折りたたむ。

「ほら、これを飲みなさい。落ち着くよ」

そう言われて渡されたお茶を飲む。

花やハーブの香りが優しく鼻を突く。

一口飲むと、涙がまた一筋流れた。

ビストートがハンカチを渡してくれる。

「ありがとう・・・」と言って受け取り、涙を拭いた。

「僕・・・自分を責めすぎていた。過小評価していた・・・のかな?」

幸福の王子は一つうなずいて返した。

「立派なんだよ、ディンブラの優しさは。世間から絶賛されるものでは無い。とても小さく、か弱いことに見えるが、1人の傷ついた敵の心を救って居場所まで与える。これがどれだけ懐深く、凄いことか」

優しい語り口調にまた涙が出る。

「俺もそう思うよ。小麦は元は魔王軍で一番忠誠心が深く、破壊行為をしてきた。でも、そんな奴が今は改心している。さらに、強力な仲間にまでなってる。本当にすごいことだと思うよ!」

「僕・・・いつか葵くんに言ったんだ。葵くんを認めていないのは葵くんだけだって。でも、僕も同じだった。・・・どれだけ未熟なんだ、僕は」

ティーカップに目線を落とす。

すると、花の甘い香りが漂って来た。

少し落ち着く。

「大丈夫だよ。もう心の痛みは取れただろう?」

幸福の王子に言われて胸に手を当てる。

不思議と前ほどは辛い気持ちがない。

「痛みを軽くしてあげたよ。全く無いと、それでは成長のさまたげになる。だが、ありすぎると、臆病になってそれはそれで前進できなくなる。だから、これからディンブラが前に進めるために必要な分だけの痛みを残した。私ができる最大限の君へのびだ」

「・・・ありがとう」と言った後に、つぶやくように「プリムトンの神樹みたい・・・」と言った。

「ん?何か言ったか?」

「ううん、何でもない!ありがとう、幸福の王子!それと・・・」

そう言ってからビストートを見る。

「ありがとう、ビストート!今日、僕を幸福の王子に会わせてくれて!!」

「どういたしまして!」

ビストートも、ディンブラが元気になった様子に一安心していた。


落ち着きを取り戻し、外に出る。

「木の実ありがとう!また来るよ!」

「こちらこそジャムをありがとう!今度はロザの少年たちも連れて来てくれ!」

ディンブラも幸福の王子に向かって言う。

「僕のこともありがとう!今度葵くんも小麦も連れてくるね!」

「あぁ、楽しみにしているよ!!」

嬉しそうに手を振る幸福の王子に、ディンブラもビストートも同じく手を振った。

帰路をしばらく歩いていると、ビストートが話しかけて来た。

「あのさ・・・ディンブラの心の痛みを取ってくれたって言ってたじゃないか?」

「・・・え?幸福の王子のこと?」

黙って頷く。

「言ってたね・・・。彼の魔法なの?」

「その、ディンブラが泣いて眠る直前に見たんだけどな、手が光出して、背を撫でたら一気にディンブラの表情が緩んで眠っていったんだ」

何故そんな話をするのか不思議に思いながら聞き続ける。

「その後さ、胸を掴んで苦しみ始めたんだ・・・幸福の王子が」

「・・・え?」と思わず足を止めた。

「多分・・・自分に引き受けたんだと思う、ディンブラの抱えていた傷・・・」

ディンブラが目を丸くして見るが、途端に罪悪感にさいなまれる。

「ど、どうしよう、僕・・・悪いことしちゃった・・・」

「違うんだ。ディンブラだけじゃない」

そう言うビストートを見ると、真っ直ぐにこちらを見ていた。

「俺も・・・初めて会った時に、取ってもらったんだ。ディンブラだけじゃない、俺も幸福の王子を苦しめた」

ビストートの話に、ゆっくりと前を向く。

「そっか・・・犠牲になってくれたんだね、ウィッチコードの通りに」

ディンブラの眼差しから寂しさが見えた。

それからまたしばらく2人は黙って歩いていたが、ある時ディンブラが口を開いた。

「またさ、あの家に遊びに行こうよ!1人の寂しさを覚えたって言ってたからさ、僕たちはああやって一瞬で幸福の王子の痛みを取ってあげられないけど、時間をかけて彼の寂しさを取り除いてあげよう!」

ディンブラの提案に笑顔で頷く。

「そうだな!そうしよう!」

「”心も人も、これ以上に無く非効率にできている”。僕たちは時間がかかって当たり前なんだ。だけど、必ず前を向いて進めばいい。幸福の王子も、きっと今、そうしてるんだよ!」

ディンブラの足取りがどこか軽くなっていた。

「次はロザの一族とか、葵や小麦も。小さな家だからゆっくり連れてってあげればいいんじゃないか?」

「うん!それが僕たちにできる恩返しだね!」

2人は楽しそうに街へと帰っていった。

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