反対意見
きしめんが戸惑いながらも一歩踏み入れる。
相変わらず鳴り続ける鐘の音が人々に来客を今もなお、知らせ続ける。
一歩踏み入れたことに安堵していると、色々な人が集まってきた。
「ディンブラ!おかえり!」
「葵くんもおかえり!」
そしてエディブルの住民の中からお馴染みの例のパーティが出てきた。
「葵さん!」
「ディンブラ!久しぶり!」
嬉しそうに駆け寄る4人に、ディンブラと葵も笑顔で対応する。
「久しぶり、みんな!ここへは大使達の手伝い?」
「遠い所まで大変だな」
チョコが笑顔で返す。
「えへへ!でもエディブルは好きだし、全然嫌じゃないよ!ちょっと長居させてもらってるし!!」
パーティは魔王を討伐した後、一度戻った地元を再度出て、メリリーシャにある大使館で働きながらギルド依頼を時々受けていた。
だが、そっちの方はあまり上手く行っておらず、結局大使館の手伝いが主軸となっている。
「その人達はお客様?」
きしめんとロルロージュを覗きながらカモミールが聞く。
ディンブラがまずロルロージュを指した。
「こちらは僕の友達のロルロージュだよ!」
紹介されて頭を一つ下げる。
ロルロージュの見た目はまるで年長くらいの幼児で、そんな子どもが肩から大きな時計を斜めに提げているので、女性陣たちから「かわいい!」との好評を得て幸先の良い出だしだ。
そして次にきしめんを指す。
「で、こちらは同じく友達のきしめんだよ!」
頭を半分下げて止まる。
その名前を聞いてアスタとチョコが驚いていた。
「うわぁ!!き、きしめん!?」
「うそ!生きてたの!?」
2人を睨みつけると黙った。
キャンディが近寄り、きしめんを睨み付ける様に観察する。
「ディンブラ、俺はこいつがこの土地に入ることを反対する!」
反発されてディンブラはキャンディを困ったような顔で見ていると、他の女子達が心配そうに聞き返した。
「キャンディ、どうしたの?」
「何でそんな事言うの?」
「ここのみんなは外からの情報があまり入らないから知らないんだろうけど、外では有名な極悪人なんだ!!魔王の手先だ!!」
途端にみんながざわつき始めた。
「魔王の?」
「悪い奴なんじゃ・・・」
そんな中、きしめんがキャンディを見据える。
「別にいいよ。来たくて来たんじゃない。俺はこのまま他所へ行く。この土地から出てってやるよ。それなら文句無いだろ?」
ディンブラが喧嘩腰のきしめんの肩を持って引き止めた。
「ほら、キャンディ!!大丈夫だよ!僕の責任下で行動させるからさ!」
納得のいかないキャンディは相変わらずきしめんを睨んでいる。
「彼は葵くんと同じなんだ。魔王軍時代に血も涙も無いなんて言われているけど、彼だって好きで破壊行為をしていたんじゃない。そういう環境にいたから、それが当たり前だったからやるしかなかったんだ。本当は心が傷ついているんだよ」
自分を擁護するその声がどこか辛い。
きしめんも黙っていると、さらに他の住人が前に出て指差してきた。
その人物はアッサムだ。
アッサムが2人を割って口を出す。
「環境だとか心の傷だとか関係無い!俺も反対だ!」
「ふんっ!そうかよ!やっぱり俺は出てくよ!これで解決か?」
腕を組んで背を向けようとするきしめんを、ディンブラが服を掴んでまた引き止める。
そんなディンブラにアッサムがさらに一歩近づいた。
「俺はこいつに反対とかじゃない!ディンブラに反対してるんだ!」
「え?僕に?」
思っていた展開にならず、きしめんが唖然としながら立ち止まって成り行きを見守る。
「何でお前の連れてくるのは男か虫ばっかなんだよ!?たまにはロリを連れて来い!」
その発言にきしめんの目が丸くなる。
「僕だってそりゃ女の子が良いよ。でも、仕方ないだろ?君がいるんだから!」
ディンブラの言い返す毒だらけの言葉にもさらに目を丸くする。
てかシンプルな悪口を面と向かって・・・。
「俺が理由だと!?ケンカ売ってんのか!!」
当然の怒りである。
だが、事実でもある。
以前もその変態性からシャロンとキャメリアから危険人物扱いを受けていた。
きしめんがさすがに呆れながら近くにいた葵に聞いた。
「何だこいつは?」
「ただの変態だ。気にするな」
するとそこへ女子の撫子が出てきた。
撫子は上品なワンピースにロングヘアの大人女子といったいで立ちなのだが、かなり大きなアタッシュケースを持っている。
一体、どこへ行くというのだろうか?と思わざるを得ない。
「そんな事も無いわよ!私はこの子達に才能を感じるわ!」
そして突然、きしめんの手を握る。
女性にいきなり手を握られて少し照れた様子を見せた。
さすがは非モテ軍隊と名高い魔王軍機動隊隊長。
万年モテ期の葵とは対極にいた存在なのである。
「私にあなたの才能を引き出させて!」
きしめんは一瞬怯むも撫子の手を握り返す。
「お、おう!」
『何?何か才能あんの、俺?』
動揺してつい頷いてしまった。
了承を得てウキウキしながら、撫子がアタッシュケースを地面に置いて広げ始める。
中から出て来たのは女性が着るようなドレス類。
そう、撫子は女装させたがりなのである。
「え?一体何を?」
よくわからないまま彼女の奇行を見ているしかできない。
そこにキャンディが割り込んだ。
「俺を無視するな!俺はお前を認めないからな!」
「珍しく饒舌だね。キャンディは少し気にし過ぎだよ。大丈夫、僕が変なことは絶対にさせない!以前の葵くんを見ただろ?」
その言葉にみんなが一気に黙ってから「あー・・・」と言う。
「きっとゴキ汁とかのことですよね?」とロルロージュが耳打ちすると、きしめんが何度も頷く。
『俺の汚名は晴らすチャンスが無いのか・・・』
葵は眉を顰めてどこを見るでもなく、黙って立っている。
このディンブラから与えられた汚名を背負い続けなくてはいけないことが明確になった瞬間だった。
「少しでも変なことしたら即追い出してやるからな!!」
キャンディが睨みつけているとディンブラは仕方なく笑顔を作って見せる。
「うん、その時はそうだね。仕方ないからね」
それからきしめんに振り返った。
「さ、キャンディも納得してくれたことだし、行こうか!!」
ディンブラの後をついて行った。




