ビストートとお出かけ
小麦と葵がリントンに連れられて、郊外付近にあるロザの一族の手伝いに向かっていった日のこと。
残されたディンブラは暇を持て余していた。
「あーあ、こんな日に限って今日の大使館のお手伝いは特に無いって言われちゃったなー」
街中を当てもなく歩いていく。
「小麦だけじゃなくて葵くんまで行っちゃうもんな・・・今回のロザの一族」
街並みを見るでもなく歩いていると、ビストートがカジュアルな格好にリュックを背負って目の前を通り過ぎた。
「ビストート!!どこ行くの?」
「あ!ディンブラ!!」
嬉しそうに近寄ってくる。
「どうしたの?その格好?」
不思議そうに目をキョロキョロと動かして全身を観察する。
「今からカラの魔女リトルの元々住んでいた家に行くんだよ!そこで食材の調達!!」
「へー!お休みの日でも仕事熱心だね!」
褒められて少し照れる。
「いやぁ・・・ま、今そこに住んでる友達にも会いに行くから、結局は休みみたいなもんだよ!」
「そうなの?ね!僕もついてってもいい?」
ディンブラにお願いされて少し困ったような顔になる。
「いいけど・・・。今住んでる人、人間じゃないんだ」
「え?そうなんだ。一体何が住んでるの?」
言いづらそうにしていたが、ビストートは話した。
「犠牲の魔女、幸福の王子っていうのが住んでいるんだ」
ディンブラは名前を聞いてキョトンとしていた。
「魔女?・・・あれ?でもその名前、どこかで聞いたような・・・・」
「たぶんパーティから聞いたんだと思う。元々チョコ以外の3人がウェストポート付近にいた幸福の王子をその家に連れて来たから」
ディンブラの目が丸くなった。
「わかった!蜂に自分の肉をあげてたとかいう!!」
「そう、その魔女。でも良い人だよ。全然攻撃性も何も無い。それに、パーティの友達だし」
ディンブラが腕組みしてビストートに怒ったような口調で返す。
「僕はその魔女に一度文句を言いたかったんだ!」
「文句?・・・あぁ、蜂の?」
さすがは”自称親友”。
お見通しである。
「そう!別に魔女だとかは百歩譲っていいとして、蜂の生態系を変えたのは許せないんだ!!」
相変わらず虫愛が強い。
そんなディンブラに苦笑いをしながら頷いた。
「わかったよ、一緒に行こうか!」
「うん!つれてって!!」
怒りながら歩いていくディンブラに「お手柔らかになー」とだけ付け加えた。
幸福の王子の家の前に到着する。
ドアに付いた鉄製の輪、ノッカーを打ち付けて呼んだ。
「幸福の王子!ビストートだ!友達と来た!!」
ディンブラはなんとなくこの家周辺の景色を気に入っていたので、到着時にはさっきの怒りなど忘れて上機嫌だった。
「なんか絵本に出て来そうな家と丘だね!」
「景色いいよな、ここ!」
待っていると、家の中から幸福の王子が現れた。
「やぁ!ビストート!待っていたよ!!」
それからディンブラを見る。
「そちらがお友達かい?」
中から出て来たのは、とても穏やかそうな全身白い印象の男性だった。
蛇のように大きく端が釣り上がった鋭い目をしているが、とても穏やかな眼差しだ。
髪は白く、着ている服も、頭から被っている布も全て白い。
肌の色は血色の悪そうな青白さをしているが、どこか感情表現が豊かで全身から温かい人柄が見える。
「なんか今日血色悪くないか?」
『やっぱり血色悪かったんだ・・・』
ビストートの言葉に目を丸くする。
「今朝は寒くてね・・・。先ほどまで窓辺で日向ぼっこをしていたんだ!」
「蛇だ・・・」とディンブラが呟いた。
その言葉に2人が注目し、こちらを見る。
注目され、緊張したように背筋を伸ばした。
「あ!そうそう!こちらは俺の”親友”のディンブラだ!」
ビストートの紹介に自分から再度名乗る。
「僕はビストートの”友達”のディンブラです」
この一々訂正して抵抗する感じ・・・。
しかしこんな程度、ビストートは何も思わない。
幸福の王子はにっこりと微笑みかけ、ディンブラを見た。
ビストートが次に幸福の王子を紹介する。
「こちらは犠牲の魔女、幸福の王子だ!」
「幸福の王子だ。よろしく」
手を差し出して握手を求める。
ディンブラはそれに応じて手を握り返すと、ひんやりと冷たかった。
「蛇だ・・・」とまた呟く。
「詳しいんだね、蛇のこと。さ、立ち話もなんだから、中でゆっくり話そう!」
そうして中へと案内された。
玄関から中に入ると、短い廊下の先にカラフルなビーズのカーテンが垂れ下がっており、そこを潜るともう茶の間とキッチンが見える広い部屋があった。
大きな窓の側には四角い明るい黄土色の木のテーブルがあり、椅子は6脚狭そうに置いてあった。
「あれ?椅子増やしたのか?」
ビストートの質問に嬉しそうに頷く。
「あぁ!あの子たちとビストートが来た時にみんなで座れるようにな!」
ディンブラがもう一度椅子を見た。
内装は見た目に反してどこかファンシーで、子どもっぽさを感じる。
白を基調とした壁紙や床板に対し、家具の天板や蓋など要所要所でカラフルだ。
先ほどのビーズのカーテンもそうである。
「結構色とりどりな家具が多いだろう?前の持ち主の趣味だよ」
「もしかして、リトルの?」
ディンブラの質問に笑顔で頷く。
「さ、座って!お茶を出してあげよう!」
促されるままに座った。




