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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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ヒーロー

メアの申し出で小麦は最後に見た荊姫いばらひめの記憶を話し始める。

「初めは幼少期からだったよ・・・」

小麦から語られるその言葉にみんなが耳を傾けた。


荊姫が幼い頃、貴族だったが自由に町を闊歩かっぽするの庶民の子どもたちに憧れていたこと、活発な少女でおてんばだったこと、父の趣味が好きで乗馬や狩りだけでなく、町人の格好をして路上でバイオリンを弾きチップを稼いだことがあること、生涯で自分が唯一稼いだこのチップを宝箱に入れていつも勇気づけられたこと・・・。


ここまで話すとみんなは前のめりに聞いて、目を輝かせていた。

「荊姫様がいつも僕たちを宝箱に入れたいって言ってたのってそれかな?」

「おてんばなのは変わらないんだね!」

「よく荊姫様の信者から馬を借りて乗馬していたもんね!馬が好きなのも変わらない!」

「でも父上とそんなことしてたなんて初耳だね!一般人に化けて路上で弾いてたなんて!」

「僕たちを宝箱に入れたいって、それってその時のチップのように勇気づけられる大切な存在ってことだよね?」

みんながそれぞれに嬉しそうに話し合う中、続きを話始める。

「でもな、ここからは少し悲しい話が始まるよ」と前置きをするとみんなが黙って小麦に注目を始めた。


10代半ばで実家よりかなり大きな家の貴族に見初みそめられ、当時の貴族文化としては珍しい恋愛結婚をしたこと、嫁いだ途端に全ての趣味を奪われ、姑の嫌がらせに加え、王族としての義務を果たすことや、自分を取り囲む貴族たちにかわいいだけの人形でいることをいられ、来る日も来る日も心休まらず、孤独で泣く日々が続いたこと。

そんな時に例のチップに励まされながらも耐え抜いたこと。

それから革命が起き、夫を殺され、姑も殺され、特に国政には何も携わらせてもらえないのに悪人扱いをされてギロチンの落ちる音と民衆の歓声を聞き、いつこの首が落とされるのかと怯えながら、死んだように生きた牢獄での時間、そこへやって来た魔獣に自らを差し出し、荊姫となったことを話した。


みんなは悲しい過去につい黙ってしまった。

イヴなんて涙を流して鼻をすすっている。

それをピンピが背を摩ってやっていた。

そんな彼らを見ながら、かけてやる言葉も見つからず、一つ呼吸をしてまた話を続ける。


魔女となり牢獄から抜け、身分にも家にも囚われない真の自由を得たこと、しかし1人じゃつまらないと思い、魔女の自分を恐れない友達としてロザの一族を作ったこと、そのモデルによく見かけた町の同世代の子たちや仲の良かった兄弟や貴族のいとこを用いたこと、その子たちとずっとしたいと思っていたお茶会をしたり、バラを摘んだりできて毎日が楽しかったことを話した。


「僕たちも・・・楽しかったです・・・荊姫様ぁ!!」

メアが泣き出したのをきっかけに他のロザの少年たちもボロボロと泣き出した。

そんな少年たちにまた残酷なことを話さなければいけない。

それは自分が彼女のギロチンとなったことだ。

「荊姫は信者やロザの一族との関わりが長年続いたことによって死への恐怖を忘れられたんだ。幸せだった分、死への恐怖が知らない内に募っていた。そんな時に魔王軍の魔女狩りで俺が来たんだ・・・」

みんな息を呑んで聞いていた。

誰も止めることなく、話の続きを待っていた。

「俺は、子どもの頃からの夢が正義のヒーローだった。魔王軍では活躍すればするほど称賛されて、まるで夢が叶ったかのような気分になれたんだ。でも、荊姫の記憶に出てきた俺はとても正義のヒーローなんかじゃなくて・・・ただのギロチンだった。荊姫からも・・・ここのみんなからも大切なものを奪うだけのギロチンで・・・ヒーローなんかじゃなかった。本当にすまない・・・」

小麦は言い終えると頭を下げた。

葵はそんな小麦を見てから、ロザの少年たちに目をやる。

1人は俯いてひざの上で拳を固く握り締め、また1人は小さく嗚咽おえつを漏らしながらも涙を我慢して耐えようとし、また1人は隣にいる仲間に寄り掛かり涙を流し、また1人は同じく泣きながら背を摩ってやる・・・。

しかし、そんな中、メアは小麦の前に歩み寄り、ひざまずいて手を握った。

「いや・・・小麦さんはただのギロチンなんかじゃないよ」

ゆっくりとメアを見ると、彼もまた涙はこぼしていたものの、優しく笑いかけてくれている。

「僕たちに知らなかった荊姫様の生涯を教えてくれたんだ。僕たちや自分が辛くなるとわかっていながらも、救いになると思って勇気を出してくれた。正義かどうかなんてわからないけど、勇気を出したその行動は間違いなく僕たちのヒーローだ!」

「メア・・・」

「ありがとう・・・話してくれて。もう一度荊姫様に会えたようで嬉しかった!」

そう言って小麦の手に寄り掛かった。

小麦もしゃがんでメアを抱きしめ、背を摩って共に涙を流し、荊姫をとむらった。

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