魔王軍の後始末
リントンが帰った後、みんなで座りお茶を飲んで事情を聞く。
その際、小麦が今の姿に至るまでの経緯を話した。
「え!?ロルロージュって本当にいんの!?」
「あんなの本でしか出てこないおとぎ話の妖精かと思ってた!!」
「ピーターパンのティンカーベルとか、シェイクスピアのティターニアとかね!」
少年たちが目を丸くしながらも、その瞳は輝いていた。
「すごい!!どこにいたの!?」
「大冒険の先とか!?」
みんなが前のめりに聞いてくる。
「いや、この周辺だよ。ラテルネ墓地方面の郊外の林にいたんだ」
「そんな近くに!?見てみたい!!」
イヴの言葉にみんなも小麦を見上げていた。
「あぁ・・・また今度な」
「今度、見れるって!!」
「楽しみだね!!どんな格好なのかな?」
なんて、わくわくしながら話している。
そして、以前ここに来たことを全く覚えていないことも話しておこうと思った。
話す前に葵と目を合わす。
葵も頷いていた。
それから話し始める。
「実は・・・前にここに来たこと全く覚えてないんだよな」
「ええ!?覚えてないの!?」
「このお屋敷を全壊にしたのに!?」
イヴもガートルードも目を丸くして言う。
「荊姫と戦った記憶はあるけど、ここに来た覚えはないな。な、葵?」
「そうなんだよ。こんなきれいな場所忘れないだろ、普通」
そして2人して内装を見渡す。
『そのきれいな場所を灰と瓦礫の山にしたのはあなたたちですけどね』と全員が心に思ったが、誰も口にする勇気はなかった。
そんなことをすれば悪夢の再来の可能性が大いにあるからだ。
ふざけるな!言うものか!!
「それで、どうして僕たちロザの一族のお手伝いに来ようと思ったの?」
メアが先陣を切って聞いてみる。
「荊姫を俺たち魔王軍が魔女狩りをした」
「それの償いをしに来たんだ」
小麦と葵に言われて、抱いた疑問をスプライが思い切って質問した。
「なんでわざわざ償いをしようと思ったの?」
「そうだよ!今更どうして?」
「魔王軍はもう崩壊したのに?」
「もう関係ないじゃないか!」
ガートルードもイヴもピンピもメアも続いて聞いてくる。
その言葉一つ一つに怒りの色も混じっているのがわかる。
それに対し、2人は少し黙っていたが、小麦が意を決して答えた。
「・・・俺はこの前、シスターの元でチキン・リトルの元信者に会ったんだ。俺はチキン・リトルのことも魔女狩りをした。彼らは今シスターのお陰で心が救われていると思っていたが、やっぱりどこか心の奥で十分に傷ついていたんだ。大使館に出入りしているパーティの召喚士、キャメリアの妖精の中にチキン・リトルの核が取り込まれている。それを見た途端に彼らは跪いて泣き始めたんだ・・・」
小麦が伏目がちに話を続ける。
「俺も信仰じゃないけど、魔王軍も魔王様も仲間も失った。それで初めて気付いたんだ。俺にとって居場所であり、一緒に笑って共有する仲間や、俺の頑張りをいつも見守ってくれる魔王軍は家族同然。戦場で張り詰めた心をいつも仲間たちといることで安らげる場所をもらっていた。それを全て失ったんだ。心のやすらぎや居場所となるその存在って、彼らにとってのカラの魔女だったんじゃないのかと思ってな。それを俺は奪ってしまった」
葵は何も言わなかった。
言えなかったのだ。
だが、この魔王軍の後始末を小麦1人に背負わせていることもわかっている。
その荷物を半分持ってやれるタイミングがわからないのである。
そのまま黙って小麦に任せることにした。
「それはこのロザの一族にとっての荊姫も同じことだと思う。リトルはこんな俺のことを許してくれた!魔王の犬と揶揄された通りに、言われるがままに様々なものを奪って壊した、こんな俺を許してくれたんだ!ロザの一族ともそうなれるなんて、そんな甘い考えは持っていない。でも、少しでも何か自分が奪って壊してしまったものの救いになる努力はしたいんだ!!」
小麦が言い切った時に葵がやっと口を開いた。
「俺はここに来る前にアスタたちにロザの一族について話を聞いて来たんだ。君たちがどれだけ荊姫を敬愛していたか、彼女を失ってどれだけ悲しんでいたのかも聞いた。俺たちがいつも魔王軍として奪ってはきたが、その後について考えたこともなかった・・・いや、考えないようにしてきたんだ。つまりは逃げていた。でも、ロザの一族の話を聞いてそれに直面させられたよ」
しばらく元四天王たちにかける言葉が見つからなくてみんな黙っていた。
それから、リーダーのメアが沈黙を破った。
「あなたたちの気持ちはわかりました。どれだけの覚悟で来られたのかも」
メアを見ると真っ直ぐに小麦を見ていた。
「あの、魔女を倒した時に核の、魔女本人の記憶が見れると聞いたことがあるんだけど、それを教えてもらえないかな?荊姫様の過去を聞けたら、僕たちはとても嬉しいと言うか・・・それこそ最大の救いになるよ!ね、みんな?」
みんなを見渡すと頷いてくれている。
「ああ、わかったよ!俺が見たものを話そう!!」
そして小麦は話始めた。




