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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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雑な詐欺疑い

小麦はラテルネ墓地の手伝いの1週間を終え、リントンに連れられて葵と共に郊外付近にあるロザの一族の屋敷に向かっていた。

「事前の挨拶行けなかったけど大丈夫?」

「うーん、それがなかなか先方との調整がつかなかったんだよね・・・。向こうも承知の上だとは思う」

小麦に聞かれてリントンが困ったように答える。

そして歩いていくと、レンガ造の大きな家が姿を現した。

ドアまでは5段ほどの階段が敷かれている

「ほぅ・・・これか」

「だいぶん立派な家だな」

小麦も葵も見上げて驚いていた。

階層で言うと3階分はある高さをしている。

「一応2人は魔王軍時代に一度来てるんだけどね」

リントンが苦笑いして言うが、当の2人は傾げていた。

「全然来た覚えないんだよなぁ。葵、覚えてる?」

「いいや、全然」

首を横に振って答える葵。

「まあ、いいよ。たぶん中の彼らは君たちがトラウマで初めはパニック症状を起こすと思うけど、気にしないでね」

それを聞いて不思議がる。

「えー?俺たち何したんだ?」

「前にリーダーのメアに会った時に過呼吸起こされたけど全然わかんないんだよな」

などと相変わらず傾げる2人に構わずドアベルを鳴らした。


ロザの一族はというと、当然のように朝からものすごい緊張感が走っていた。

「いいか、みんな!この日がついに来た・・・!!」

メアの呼びかけにみんなが強張こわばった表情でうなずく。

「リントンから何度か事前挨拶の申し出をしてくれてたけど、断り続けてたからな・・・」

スプライが言うのに対し、イヴなんてメアに「そもそも断ればよかったんじゃないの?」なんて言う始末。

「いや、そうしたいけどさ、大使たちにはよくしてもらってるし無下むげにも扱えないだろ!」とピンピが言う。

「ね、ねぇ、今回はきしめんも来るんだよね?」とガートルードが不安げに聞くと、その問いに対してメアが慎重に頷いた。

全体的に不安の空気が流れる。

やはり魔王軍最強の名は伊達ではない。

彼らを十分恐れさせるのに本体などいらなかった。

「葵とはこの前大使館で会った時はあの日の悲劇を全く覚えてない様子だった。それにきしめんがお手伝いに行ったという教会のシスターに直接聞いたんだけど、改心して別人のようだって・・・」

「でもさ!あそこのシスターはそもそも魔王軍贔屓びいきじゃないか!噂によると葵を崇めてるって?」

ピンピが厳しく問い詰める。

「え、何それ?何でそんなことしてるの?魔女信仰みたいなもの?」

半分は恐怖心、半分は信じられないといった気持ちを交錯させながらイヴが聞き返した。

本当になぜそんなことを彼女はしているのだろうか?

そんなことさえしなければ、この幼気いたいけな少年たちに変な不信感を抱かせなかっただろうに・・・。

そんなことを言い合っている内にドアベルが鳴った。

「来た!!みんな!い、行くよ?」

全員で円陣を組み、深呼吸を10回程してからドアへ向かった。


ドアを開けて出迎えたのはリーダーのメアだった。

ぎこちない笑顔は一生懸命作った最善のものである。

「や、やあ!リントン!」

「メア、全然挨拶に来れなくてごめんね!今日からお世話になる2人を連れて来たよ!」

「こ、こちらこそ・・・・」とがんばってもう一度頬の表情筋を押し上げる。

メアの位置からは葵が見えていて、呼吸が少し乱れ始める。

「こひゅ・・・こ、こんにちはぁ!」とさらに表情が強張こわばった。

『がんばれ!僕!!』

左胸を叩いて自分を必死に鼓舞こぶする。

「こちらは前に大使館で会ったよね?葵くん!」

「こんにちは!」と爽やかに笑顔で返した。

「そしてこちらが・・・」と言いかけるリントンに手を前に突き出して顔をそらせる。

「ちょ、ちょっと待って!!」

それから大きく深呼吸をして動悸を押さえ込み、再びぎこちない笑顔で振り向いた。

「どうぞ!」と促す。

「えーと・・・元きしめんで、今は小麦だよ!」

リントンが体を避けて初めて小麦の姿を見た瞬間に眉をひそめた。

「・・・え?きしめんは?」

「俺だ。今は小麦と名乗っている」

あからさまに混乱するメアが頭を抱えだした。

それも無理はない。

以前の魔王軍時代のきしめんは恰幅かっぷくの良い感じだったが、目の前の人物はゆるいシルエットの服を着ていてもわかるような、筋骨隆々で葵並に爽やかマッチョではないか!

しかも小麦という名前だし、名前からして違うし、そろそろ雑な詐欺を疑い始めている。

「え?リントン、きしめんは?」

再度聞くがどうしても小麦という奴が「俺だよ。俺がきしめんだ」と言いはる。

「なんか全然知らない人がきしめんを語ってるけど・・・法外的に高収入のバイトでも雇ったの?」

そう聞き返す彼の顔は真剣そのものである。

「信じがたいのはわかるけど・・・小麦がきしめんなんだよ!う〜ん・・・説明難しいな」

リントンも悩み出した。

「お前の見た目に信憑性が無いみたいだな」

葵もこの状況に小麦をいじる。

「意味わかんねーよ。とりあえず、俺がきしめんで、今は小麦だから!わかったらとっとと中に入れろ!まだ他の奴らもいんだろ!!」

半ギレ状態で圧をかけて言うと「ひぃ!きしめんだ!!」とやっと理解してくれた。

「お前の威圧は印籠みたいなもんだな」

葵がいたずらっぽくニヤニヤと冷やかすので、睨んで返す。

やっと中に入れてくれたところでさっきの面倒くさいやりとりがあるのかと思っていたら、メアが他の仲間たちに「葵と!あときしめんが来た!!今は小麦なんだって!!」とその一言で全員が恐れおののいた。

「ひぃぃ!」「葵だ!」「きしめん!!」「ついに来た!!」とそれぞれに怯える。

「僕からの紹介はいらなさそうだね」

リントンが苦笑いをしていた。

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