閃光弾
rossoの兄弟がニヤニヤと不敵に笑い、小麦を誘う。
「ダメだ、小麦!こんな方法で連れさらいに来るような連中だ!!きっと、お前をこの後で始末する気だぞ!!」
小麦は答えずに黙っていると、ヘルハウンドの背後からフィサリスが現れて飛びついた。
「ヘルハウンド!!大丈夫!?」
「フィサリス!!」
ヘルハウンドを抱えて傷口を確認する。
「小麦のピアノが消えて、大きな音もしたから心配して来たのよ!!」
そして兄弟を睨んだ。
「あなた達?ヘルハウンドに怪我をさせたのは!!」
怒るフィサリスに兄弟が口笛を吹く。
「お姉ちゃん可愛いね!」
「ヘルハウンドって、君の犬?」
その質問に怒って立ち上がる。
「私の、ではないわ。この墓地を守る妖精よ。私はここでヘルハウンドと共に守ってる死神のフィサリス」
兄弟が目を合わせ、不敵に笑い合う。
「ギャラリーが多くなってきたな。兄ちゃん、どうする?」
「そんなの決まってるだろ?」と不敵に笑い、ポケットから出した手には何か見たことのない筒のようなものが握られていた。
見た目は男性の掌より少し大きく、手からはみ出た本体はカーキー色で格子状に線が入ったような凹凸がある。
その頭には自転車のブレーキのようなレバーと、ピンが刺さっていた。
科学の世界の者が見ればすぐに「手榴弾だ!」と叫ぶところだが、こんな物が存在しない魔法の世界の者から見れば得体が知れなかった。
「犬とお姉ちゃんは邪魔だ!」
チェルヴェッロがピンを抜いて地面に叩きつけた後、爆薬を放り投げる。
「賛成だ!」とコルポも同じようにして投げた。
投げた物は爆破の手榴弾ではなく、閃光弾。
強い光が一瞬にして辺りを真っ白に覆い、世界を支配する。
「きゃ!」
強く瞼を閉じ、俯いた。
光は一瞬で消えたが、しばらくは目が見えなくなってしまった。
フィサリスはヘルハウンドを離さない様にしっかりと抱える。
小麦も強い光を受けて、目を開けられないでいた。
兄弟はゴーグルを外すと、お互いに見合わせてから、小麦目掛けて持っていた折畳み式の警棒を振り下ろした。
小麦は気配だけで避ける。
しかし、コルポの警棒が肩に当たった。
「ゔっ!!」
鈍い音とその声に2人が反応する。
「小麦!大丈夫!?」
「くそっ!何も見えない!
心配するフィサリスとヘルハウンド。
小麦は冷静に、警棒を持つその手首を左手で内側から掴み、右手を沿わせて脇で頭を抱えた。
そのまま引きつけて足で払って投げる。
「うわぁ!!」
投げ飛ばすと同時にコルポの手首を捻って、警棒を取り上げた。
ヨロヨロと立ち上がり、目を押さえる。
だが、すかさず小麦の左腕に今度はチェルヴェッロの警棒が当たった。
当たった瞬間に警棒の先にある手首と大凡の位置で襟元を掴んで、左足を素早く一歩入り、右足を軸に体を反転させて左足を上げて相手の股に突っ込むように入れる。
そこで手首をひっぱり、襟元も引きつけ上半身を捻り地面に投げつける。
柔道の技である内股を使った。
投げると同時にコルポの時と同じ要領で警棒を奪い取る。
目は見えない状態だが、経験と体に叩き込ませた動きで、あっという間に2人の警棒を取り上げることに成功した。
「やるな!流石元四天王最強!!」
「わざと俺らの攻撃受けて武器を取り上げるなんて、思いもしなかったよ!」
小麦がゆっくりと目を開けていく。
まだ完全に正常とは言えないが、少しずつ見えてきた。
「兄ちゃん、警棒じゃあぬるかったね。やっぱりこいつ一筋縄ではいかないけど、どうする?」
「次の手を打つのみ!!」
ニヤリと笑ってナイフを取り出すコルポ。
小麦の呼吸が荒くなる。
まだ完全には視界が回復していない小麦は、相手の出方を警戒することしかできなかった。




