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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
生き残り
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一歩踏み入れる勇気

ディンブラ率いる4人は翌日の午前中にはエディブルの花園に到着した。

車を降りると、そこには異様な光景が目に飛び込む。

周辺は特に何も無い平原なのだが、目の前には高く長く続く灰色の無機質な壁がそびえ立つ。

端が見えないくらい長く続く壁に守られ、外からは誰も覗くことができないこの花園はまさに秘境だろう。

しかし、一体この先にはどれ程の土地があるというのだろうか?

生前の魔王が何かにおびえながらもここを手にすることを望んでいた。

科学の世界を追いやり、魔法の世界の権力を強め、数多あまたの軍を率いて数々の大陸や土地をべた絶対的支配者、我らが魔王がそれ程にまで渇望かつぼうするだけの価値のある場所なのか?

魔法の始まりでもあると言われている樹があるとか言っていたが、本当にそんなものがこの無機質な壁の先にあるのだろうか?

きしめんは思わず首をひねる。

魔王の希望をこの門の先で目にすることが本当にできるのだろうかと、思わず疑問を抱いてしまった。

目をやると、細身の男女の門番2人がいる。

この程度で守れる程の花園に価値を見出せないでいた。

それからディンブラに目をやる。

そして思い起こされるメリリーシャでされた黒いプルチネッラからの数々の所業。

さらに魔王軍歴代最強とまで呼ばれた自分がライバルと認める程の実力者である葵に制裁を下したという過去の実績。

この事実に関しては、葵の反応を見て真実だと確信を得ている。

きしめんは冷や汗を垂らした。

「まぁ・・・見た目じゃ判断できないか」と思わずつぶやく。

「何か言いましたか?」とロルロージュが見上げていたが、首を横に振って答えた。

「いや、なんでも!」

門の付近では門番がディンブラと葵に笑顔で対応していた。

だが、きしめんとロルロージュを一度見て真顔になり、それからディンブラに質問する。

「そちらは?」

「僕の友達だよ。これが僕からの紹介状と、大使館からの許可書だよ!」

そう言って門番に手紙を渡した。

「友達・・・ですか」

門番の片方がじろじろと見るように観察し、もう片方が手紙を読む。

「彼は今、疲労困憊ひろうこんぱいでね。ここのプリムトンの神樹の力で治癒をしてあげたいんだ!」

「なるほど、わかりました」

「許可書と紹介状の確認をいたしました。ディンブラさんの責任の下、行動して下さい」

そう言うと、許可書と紹介状を畳んで持った。

そんな2人に疑問をぶつける。

「1つ聞くが、何でお前ら男が女の格好をして、女が男の格好をしてんだ?」

門番とディンブラが反応する。

「よく気づいたね!アスタ君達はだまされてたけど」

きしめんが得意気に鼻を指差した。

「俺は結構鼻が効くんだよ!」

「犬かよ」と呟いた葵を睨む。

「まあまあ、理由は?何で2人の性別が分かったの?」

「男と女じゃやっぱり体臭に変化が現れる。あと筋肉量もだ。どれだけ鍛えていても女の体型をしている」

門番の姉こと男装女子が頬を膨らませていた。

そして、門番の弟こと女装男子はあからさまにショックがる。

「た、体臭・・・」

「私だってちゃんと努力をしています!!」

「別に俺が性別を見破ったのは今までの経験則からだ。他の奴らじゃ、騙せるさ。よくがんばっていると思うよ、それだけ男や女になれてんならな」

その言い方にもどこか気にさわるものがあったのか、門番達は少しねてディンブラを見る。

「あー、気を悪くしないで!ちょっと観察眼に優れていただけだからさ!ちゃんと僕の責任下で行動はさせるよ!!」

2人をなだめると、頬をふくらましながら門を開けてくれた。

「言動はつつしめ。お前に良くしてくれたディンブラが非難される」

葵に睨まれたが、きしめんは「ふんっ」と鼻を一つ鳴らして腕組みする。

「さ、入ろう!ここがエディブルの花園だよ!!」

門が開き、上に付いている鐘が鳴り響き来訪者を花園内に知らせた。

門は柵状ではあったのだが、魔法で白いモヤがかかり、中は見られないようになっていた。

その門が開いた瞬間、きしめんは奥にある景色に思わず息を呑んだ。

まず、目に飛び込んだのはどこまでも広がる平地。

その地面には人が歩く道以外には背の低い、芝生程の草や花が生えている。

風に揺られて草花が揺れ動く。

微風そよかぜに乗って鼻を突いた香りに癒された。

思わず目を見開く。

『これが・・・エディブルの花園』

ため息がれる。

自分とは無縁の永遠の平和の世界。

本当にここに自分のような人間が入っていいのだろうかと躊躇ためらう。

今までこんなにも美しく、優雅な景色は見たことがなかった。

まるで絵画のような花園は、きしめんが見てきた景色とは真逆の存在なのだ。

目の前の絶景にたたずんでいると、ディンブラが振り返った。

「どうしたの?おいでよ!」

「え?・・・・あ・・・」と返事に戸惑いながら足元を見る。

この門の境目を超えて踏み入れる。

たったそれだけのことに、これだけの躊躇ちゅうちょをしようとは思いもよらなかった。

きっとそれは、ここまで魔王や魔王軍を盾に正当化してきた自分の略奪行為への後悔であろうか。

命令とは言え、“自分はここを侵略しようとしていた”のだから。

『こんな綺麗な場所を、自分の見てきた景色と同じようにしようとしていたのか・・・』

きしめんの見てきた景色は黒、灰、茶、それと自分の燃やす炎や人々の血の赤だった。

しかし、頭を左右に振り、一つ息を吸って、勇気を出して一歩を踏み入れた。

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