奢ってくれた一杯
ナンパをマタリから直々に教えてもらい、実践をしてみたものの、小麦は惨敗、葵に至ってはその広場全体が信者の巣窟で現場はパニックに。
逃げ切ったはいいが、疲れた2人はカフェでだらしないくらいグッタリしていた。
そこへなんと幸運なことに1人の女性が、向こうから声をかけてくれた。
これほどナンパ初心者にとって嬉しいことはあるだろうか?
とにかくラッキーな2人は背筋を伸ばして、身なりも整え、女性との会話に挑むのであった。
「こんにちは、素敵なお2人さん」
「やぁ、こんにちは!今日もいい天気だね!」
「はじめまして。天気がいいから心が踊りそうだね!」
そんな張り切る2人に女性がニコリと笑いかける。
「2人で何してたの?」
2人が一瞬真顔で黙り、それからぎこちなく笑って返した。
「コーヒーを飲みながら・・・」
「天気の話をしてた」
「よっぽど天気が好きなのね!」
口元に手を当ててクスクスと笑う女性に、苦笑いを浮かべて何度も軽く頷き返す。
「そう!俺たち天気が好きなの!」
「そんな事より、何か用?」
葵が聞き返すと、女性は軽く微笑んでから答えた。
「ふふ!大した用は無いの!ただ、お茶をご一緒させて頂けないかしら?私1人だから寂しくて・・・」
葵がにこやかに返す。
「どうぞ。何か買ってこようか?」
「そんなの悪いわ!ご一緒させて頂くのは私の方だし、奢らせて!ホットコーヒーで良いかしら?」
空っぽになったコーヒーカップを指す。
「いいの?ありがとう!エスプレッソで!」
「悪いな!俺もエスプレッソで!」
女性が席を立ち、飲み物を買いに行ってくれた。
そして、少ししてからエスプレッソ2つと、コーヒーを買ってトレーに乗せて持ってきた。
「お待たせ!」と2人にエスプレッソを配って席に着く。
「ありがとう!」
「じゃあ早速だけど、これ飲んで」
小麦がエスプレッソをにこやかに指した。
「・・・え?」と戸惑う女性に、2人は冷徹な笑みを浮かべてカップを前に出す。
「どうした?飲めないの?」
「砂糖入れようか?」
葵が砂糖を出すが女性が黙る。
「お前、さっきの広場でいたよな?」
「カルト集団じゃない一般人としていたけど、わざわざついてきてたのも知ってるんだぞ」
さっきとは打って変わって2人から笑顔は消え、とても淡々とした口調になっていた。




