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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
生き残り
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生き残った者

話し終えた後、きしめんは鋭い表情に変わって葵とディンブラを見た。

そして、胸に手を当てて、強い意志を込めて2人に言い放つ。

「部下から貰ったこの命!俺は魔王軍の復讐をするまで、まだあの世に行くわけにはいかないんだ!!」

きしめんの話を聞き、葵もディンブラも黙っていた。

特にディンブラは複雑そうな表情をしてうつむいている。

自分達の花園を守るためとは言え、敵には敵の事情もある。

今まで考えもしなかったことが、自分の引いた引き金で起きてしまった。

それが今、憎かった元敵を通して明るみになったのだ。

そんな相手が憎しみを持って復讐に来たが、内情を教えてくれた。

それをどう受け止めるか、自分に受け止められるのか。

一生懸命に伝えてくれた相手への敬意として、何か返そうと思い、顔を上げた。

「君は・・・本当にしたわれていたんだね。ただの魔王信者じゃなかったんだ・・・」

「魔王様は大事だ。親のいない俺やみんなの親代わりをしてくれた。だけど、部下や仲間は俺の命同然だ。ずっと俺を信じてついてきてくれた」

心配そうにロルロージュが隣からきしめんを見上げていた。

相変わらず葵は無口に座っている。

きっと、彼なりに何か考えているのだろう。

魔王軍の最後を聞き、裏切った者としての罪悪感も抱えているに違いない。

そんな4人を見て、ビストートは軽くため息を吐き、一つ呼吸を吸って気合を入れ、厨房から飛び出した。

「はい、できたぞ!いっぱい食えよ!!」

そこへ空気を壊すかの様な明るい声でビストートが料理を運んだ。

すぐにでも食らいつきたいのだろうが、あんな話をした手前である。

気まずい。

きしめんがディンブラの様子をうかがうように見た。

そんな相手のことを察して、ディンブラも手を差し出して笑顔で応えた。

「どうぞ、お食べ!」

「頂きます!」

手を合わせて2人でがっつく。

ビストートの料理が美味しいのは当然なのだが、久しぶりの食事で手が止まらない。

「うっま!!何これ!?こんな美味いパスタやサラダ初めて食べた!!」

「良い食べっぷりだね!」

「作り手としても気持ちが良い食べ方だな!」

昼食を済ませていたディンブラと葵はコーヒーを飲んでいだ。

そんなディンブラにビストートが提案する。

「なぁ、今夜の飯はどうすんだ?ウチ来ないか?貸し切るけど?」

「折角だけど、この後直ぐにエディブルに戻る予定なんだ」

それを聞いたビストートが残念そうにする。

「何だ・・・もう帰るのか」

「長い間留守にしたから、そろそろ帰らないと心配かけちゃう」

ビストートが葵を睨む。

「葵は当然、実家に帰るんだろ?あのイカれた家族の所に」

「俺もエディブルに行くよ。あと人の家族をけなすな」

葵も睨み返して堂々と言い返す。

「なんだとぉ?俺だって行ったこと無いってのに、生意気だぞ」

「ディンブラからの信頼が薄いんだな。ご愁傷しゅうしょうさま」

嫌味を垂れる葵をさらに睨みつけるが、葵も無視してコーヒーをすすっていた。

そうこうしている内にきしめんとロルロージュが食べ終えた。

再び2人して手を合わせる。

「ご馳走様でした!!」と口を揃えてそれはもう有り難そうに言った。

「ビストート、お会計して!」

ディンブラに言われて不機嫌になりながらも渋々会計をする。

席でお金を払うと名残惜しそうにしてきた。

「ディンブラ、本当に行くのか?」

「また来るよ!」

そう言って片手を挙げるディンブラは淡々としたものである。

外に出る前にきしめんが「ご馳走様でした」と一言言って頭を下げてから去る。

それに対して手を挙げてやった。

「・・・あいつ、葵よりかはずーっとましだな」

親友を取られたビストートが不満そうに見送っていた。


店を出た4人は歩いていたが、ある程度離れてからディンブラが振り返る。

「さて、エディブルに行こうか!そこでならきっときしめんの心の傷も癒せると思うんだ!でもその前に・・・」

そう言いかけてから、ディンブラがロルロージュを見る。

「君はどうする?自由にしたっていいんだよ?」

「待て!ロルロージュがいないと俺は日暮れには元の全身火傷姿に戻ってしまう!!」

「あ、あの・・・そのことなんですが・・・」

ロルロージュは言いにくそうに見上げていた。

「さっきは言わなかったんですが、あの薬を飲むと僕が解除しない限り永遠にその姿なのです」

「永遠!?そうなのか?」

「それじゃあ解決だね!」とディンブラが笑顔を向ける。

しかしロルロージュも渋った。

「でも・・・さっきの小瓶に書いていた紙は契約書でして、今きしめんさんとは契約状態にあります。だから完全には離れられないのです」

「何でそんな大事な事!早く言えよ!そんなんだったら無理には飲まねーよ!」

「さっき僕が罠に掛かっていたところをきしめんさんに助けて頂きました。命の恩人なんです。それに・・・」

言葉を区切ってロルロージュが照れながら嬉しそうにする。

「必要だって言って下さいました。僕も命を救ってくれたきしめんさんに恩返しがしたいんです!だから、その・・・」

もう一度一呼吸置いてきしめんを真剣な眼差しで見た。

「僕はきしめんさんといたいんです!!」

一生懸命に訴えるロルロージュの頭を撫でてやる。

「俺みたいな血生臭い奴といても良い事無いぞ」

「いいんです!いたいんです!それに、どんな怪我でも僕なら一瞬で治せます!」

ロルロージュにディンブラが優しく微笑みかけた。

「そっか、来たければおいで。ロルロージュの分も許可書を書けばいいだけだ!」

「ありがとうございます!」

ディンブラが一度大使館へと行き、きしめんとロルロージュの許可証を書いてもらってから、また合流する。

そして、4人はメリリーシャを再び後にし、ディンブラの故郷であるエディブルの花園を目指した。

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