因果応報
「小麦、今日はお休みでいいわよ!」
朝、教会に着くなりいきなり言われ、キョトンとする。
「え?何で?急だな・・・。今日ココのお手伝い最終日だよ?」
「あなたがこの数日間、よく働いてくれたからよ!たまには休みなさい!」
そう言われた後、そのまま外へと背中を押して締め出された。
「まぁ、そう言ってくれるのなら有り難いけど、何しよう・・・」
小麦は大きくため息を吐く。
街のベンチに座って、行き交う人を右に左にと眺めながら、昨日の夕方に行ったラテルネ墓地での挨拶を思い出していた。
昨日の夕方、小麦はリントンとラテルネ墓地へと挨拶をしに訪れていた。
墓地ではフィサリスが出迎えてくれた。
「どうも、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
挨拶を交わしてから小麦が辺りを見渡す。
「ヘルハウンドなら拗ねて出て来ないわよ」
フィサリスに言われて小麦が俯いた。
「ヘルハウンドのことは気にせず、自分のやるべき事だけやればいいわよ。最近は墓荒らしも少ないし、掃除とか手伝ってくれればいいわ。あなたの働きっぷりも、改心したこともシスターから聞いてるから、楽しみにしてるわね」
リントンが落ち込んだ様子の小麦の背を摩ってやる。
「ありがとう、リントン。自分のした事は全部返って来るんだ。ヘルハウンドに避けられる事も、俺のしてきた事が返ってきただけだ」
「それがわかっているんなら上出来じゃない。今度のお手伝いよろしくね。それじゃ」
フィサリスは淡々と言い放つと背を向けて去る。
小麦は俯き気味に目線を落としたまま黙っていた。
いつまでも街ゆく人を眺めていても仕方ないので、大使館へ戻る。
ドアのベルを鳴らすとマタリが出てきた。
「あれ?小麦、教会のお手伝いは?」
「突然休みをくれたんだ。何も予定が無いから困っててさ」
するとマタリがニヤリと笑って小麦に近寄る。
「じゃあ、俺に付き合えよ!今から女の子誘ってお茶するんだ!」
小麦の表情がパッと明るくなった。
「女の子とお茶!?勿論!・・・で、その女の子って、マタリの知り合いか何か?」
「いや、初対面!」
マタリは堂々とそう言い放った。
マタリに連れられ、人が集まる広場に向かう。
行き交う人々に、ベンチやカフェのテラス席でゆったりとする人々。
しかし、どこを見渡してもここの人々はどこか洗練されているというか、垢抜けたオシャレな人が多い。
小麦がここに来る途中、何となく通りすがった本屋の表にあるファッション雑誌に目が行った。
その本の見出しには“若手デザイナーの登竜門で幻のモンスター級新人モデル現る!!”と大きく書かれていた。(月桂樹の葉を編む第3章第83〜85話参照)
そして、その写真にはデカデカとコレクション用にメイクをした柊が写っていたが、小麦は生憎彼との面識がない。
実は端の方に最優秀デザイナーとして葵の三兄も表彰された写真が小さく載っていたが、歩きながら見た小麦の目には止まらなかった。
だが、この雑誌は世界のファッションの最先端情報を取り扱うものなので、それが売っているということはこの広場はファッション好きや関係者などのオシャレな人が集まる場所ということだ。
メリリーシャをよく知る者たちも口を揃えて言うのが、「ファッションを知りたければこの広場へ行け」とのこと。
数歩先を歩くマタリが立ち止まり、小麦もその隣で足を止める。
「いいカフェやファッション系の店も多いし、可愛い子がいっぱいいるんだよ、この広場!」
「ほー!どの子もレベル高いな!」
見渡すほどに自信に満ちたオシャレな人々だらけだ。
ここでの自分への自信とは「自分は美しい!」という確信である。
その確信は人々の背筋を伸ばさせる、胸を張らせる、口角と頬を上がらせる、目を輝かせる。
その様は男女問わず、第三者に美しく見せさせる。
決して顔の美醜からのみのものではない。
内面から反映させた美しさなのだ。
それは何者をも説得させる凄みのあるオーラを纏わせる。
そのオーラは人々を魅了する魅力となって放たれるのだ。
そう、ここは大都会の中でも特に自信に満ちた人が集まる場所。
美に対する情報の最先端の広場と言っても過言では無いのである。
小麦は人々の様子に圧倒されたのか、思わず息を呑んだ。




