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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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救世主

ある朝、シスターのお手伝いをしに教会に行く準備していた時、小麦はリントンに声をかけられた。

「小麦、今日お手伝い終わりにラテルネ墓地に行こう!教会の次の場所へ挨拶に行こうか!」

「おう。でもだいぶんギリギリになったな」

小麦の言葉にリントンは困ったように笑う。

「うん、なんだか墓守のフィサリスと調整してたのがやっと今日落ち着いてね。急で悪いけど、よろしくね!」

「わかった!いつもありがとう、リントン!」

それから教会に向かう。

教会では以前ミサ中止の張り紙を見てショックを受けていたジャトロファとソルガムがシスターの隣にいた。

「おはよう、シスター!」

「おはよう、小麦!紹介するわ!こちらはメリリーシャの近郊に住んでいるジャトロファとソルガムよ!」

2人が頭を下げる。

それから2人に向かって小麦を紹介した。

「それで、こちらは小麦!以前の名前は元魔王軍四天王のきしめんよ!」

小麦がシスターの紹介の仕方に疑問を持ちつつ頭を下げると、案の定2人が表情を強張こわばらせて反応していた。

「あれ、この前・・・」とその強張ったままの表情で言われる。

「はい、ミサ中止の時に声をかけさせてもらいました」

そう答えると、思い出したかのような口調で言う。

「・・・あ!そう言えばあの時もいたな!」

「お掃除の業者かと思ってた・・・」

話し合う2人にシスターが付け足した。

「小麦は今、1週間教会のお手伝いをしてくれているの!」

2人の反応に違和感を覚え、ついに聞いてみた。

「・・・あの、他でも会ったことが?」

恐る恐る2人に小麦が聞くとうなずいて答えてくれた。

「この前ミサの終わりにビストートさんが連れ去りに来てた時だよな?」

「そうそう、シスターから略奪愛?ってみんな言ってたよな」

「その言い方やめてくれないか?なんかゲイのカップルみたいだから」

『ここの信者こんなんばっかかよ?』

小麦の表情から感情が失せ、目が座っていた。

「小麦、この2人は元々はカラの魔女、チキン・リトルの信者だったの」

そうシスターに言われてハッとする。

「我々は近郊の集落でカラの魔女様を信仰していたんだ。元から雨の少ない地域で、その年は特に旱魃かんばつが続いていたんだが、そんな時にあの方が雨を降らせて下さった。ただの気まぐれかもしれないが、我々はあの時、命をつなぐことができた」

「しかし、ある日の新聞で魔女狩りにあったと聞いた。その後、復讐心に燃える我々に魔王軍から派遣されたのは四天王のそうめんだった。結果的に惨敗した。こちらは瀕死の上、仲間も何人か死んだが、あちらは誰も欠くことなく技術と戦略でたった3人で圧勝した」

当時の様子を語る2人の表情に影が差す。

「俺もそうめんの能力で毒にかかり、ソルガムも大気中にあった毒を大量に吸って倒れ、あとは死を待つのみだった。そんな時にシスターが通りかかって助けて下さったんだ」

ジャトロファとソルガムの話を引き継ぐようにシスターが続ける。

「私も、ちょうど彼らの集落近くにある別の集落に友達がいて、そこを訪れる途中で瀕死の彼らを見つけたの。命が助かってよかったわ!」

最後は安心したように言うシスターに2人も笑顔を向けた。

「そうか・・・俺はジャトロファとソルガムにとってはチキン・リトルの仇なんだな」

うつむいて落ち込んだように声を小さくして言うと、ジャトロファが手を前に突き出して制する。

「いや、そういうことじゃなくて・・・まあ、それもあるが、ここからなんだ。本題は」

「え?」と意表を突かれた顔をしながら相手を見る。

「命を救ってもらったはいいものの、信仰対象を失い途方にくれていた俺たちは、とりあえずシスターにお礼が言いたくて教会に行ったんだ。そしたら・・・」

彼らが言うにはこうだった。

助けてもらった後日、シスターにお礼を伝えに行くと、どうやらお祈りの最中とのこと。

外で待ち、その日は礼を伝えて帰った。

翌日も何かシスターに恩返しができないかと教会を訪ねた。

そこでシスターと話し込んでいたらお祈りの時間が来たと言い、そのまま参列させてもらうことに。

しかし、そこに集まるのは女性ばかりで男性の2人としては肩身が狭い。

さらに、ジロジロと見られ、しまいには「あなた方、いつ葵様に目覚めましたか?」と聞かれて何のことかわからずたじろいでいると「モグリ!」と呼ばれて追い出された。

それからはシスターに葵様のことを学ばせていただき、それでも初めはモグリのレッテルのせいや、定員オーバーのせいでお祈りの時間には数日間参加できなかった。

そうやって通っている内に熱心さを参列者に認めてもらえた2人は、やっとの思いで参加させてもらえた。

そしてその際に写真でご尊顔をお目にかかることができた時の嬉しさたるや。

感激のあまり涙が一筋こぼれ落ち、自然と胸の前で手を組んでひざまずいていた。

その時の葵の写真には天から光が降り注ぎ、なんとも神々しく光り輝いて見えたとか。


「ってなことがあってさぁ!!」と大使館に戻って大使の事務作業を手伝う葵に言う。

「知ってる。それまんま同じこと前に本人たちから聞いたよ。で?何でお前はお手伝いの途中で抜けてきたんだよ?」

小麦を一切見ることなく淡々と作業を続ける葵に、机を叩いて注意を引いてから叫ぶように言った。

「そこなんだよ!俺は抜けてきたんじゃない!追い出されたんだ!!」

なんと、小麦は追い出されていた!

かつて信仰心が足りなかったジャトロファとソルガムが信者の女性陣に追い出された時のように、歴史は繰り返されたということなのだろうか?

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