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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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天に帰された部下たち

必死に怒ってくれるディンブラに少しの間、目を丸くしていたが、次第に小麦の緊張が崩れたように笑う。

「ははっ・・・、そうだな。悪かったよ。俺たちはどこかでディンブラをないがしろにしていた」

それから小麦は安心した様な表情を見せた。

「正直言うと、俺はディンブラに嫌われてるのかと思ってた。どれだけ優しく接してくれてても、俺は魔王軍で1番忠誠を誓っていたし。だから、このお手伝いを必死にしてたのも、ずっとどこかでディンブラからの信頼を得る為にしていた」

ディンブラが小麦から手を放す。

「でも俺のことを思ってこんなにも怒ってくれたんだ。これからは家族として、頼りにしてるよ、ディンブラ!」

ねたように頬を膨らませ、眉を近寄せ、そして腕組みをしていた。

「当たり前だ!それと!」

葵に向き直って胸元を叩く。

「さっきから一言も話さないけど、君も僕を家族だと思ってないだろ!葵!!」

「あ!え?あはは!そんなわけないだろ?頼りにしてるよ、ずっと!」

葵を突き放して睨む。

拗ねた様子ででも、本気で怒ってくれている。

2人はそんな本気でぶつかってきたディンブラを仲間外れのようにしていたことに気づき、どこか罪悪感を抱いた。

今日直接話に来たことだって、そんな2人にディンブラの我慢の限界が来たということなのだろう。

2人でこそこそと話していたことを知ってて、よく我慢してくれたものだと感心する。

「腹を割って話したんだ。これからは3人で1つだ!見捨てる事もしなければ、仲間外れもナシ!」

ディンブラがやっといつものようにニコッと笑った。

すると、下から声が聞こえた。

「僕も忘れられちゃ、困ります!僕は小麦さんの相棒ですよ!!」

ロルロージュが小麦によじ登る。

「起きてたのか!ロルロージュ!」

「起きました。皆さんがうるさいので。それより、僕のことも忘れないで下さいよ!!」

頬を膨らませて怒るロルロージュ。

「そうだな、お前は俺の命を救ってくれた。お前がいなかったら、俺はココにはいないんだ。ロルロージュは大事な相棒だよ!」

そう言ってロルロージュを小脇に抱えてやった。

「俺たちが相手にするのは真っ当ではない裏の組織だ。ディンブラとロルロージュはこれから、そことの戦闘に巻き込まれる事になる。俺たちも極力守るが、どうしても手が届かない時もあるだろう。だから、自分を守る術と危険に立ち向かうという覚悟を持っていて欲しい」

「わかった。何か考えておく。僕からもお願いがある!」

続いてディンブラが申し出る。

「何だ?」

「何かあれば、必ず報告しよう!」

小麦も葵も真剣な表情のディンブラを黙って見た。

「君たちはこんな事を言っても、僕達を危険から遠ざけようと黙るはずだ。この前まで、魔王軍だった君たちとは敵同士の仲から、共に暮らす家族にまでなれたからこそ、僕の事を心から信じて欲しい」

「約束しよう。俺も葵も必ず2人を信じて報告する」

小麦がうなずいて返したのに対し、ディンブラは笑顔になった。

「絶対だよ!」

「あぁ、絶対だ!」

ディンブラと小麦が握手を交わした。


biancoの拠点とする建物内では、幹部であるピエロが部下を呼び出していた。

「ねぇ、キールを見ないんだけど、教会からまだ帰ってない?偵察人員の君は帰ってるのに、どこにいるんだろ?てか色々帰って来ないんだけど?みんな何してんの?」

「それが・・・非常に申し上げにくいのですが・・・・・」

部下が顔色悪く、さらに気まずそうにもする。

「天に帰されたっぽいです」

しばらくの間、沈黙が流れる。

「・・・は?」

ピエロは一切の感情無く言葉が出た。

「教会のシスターやその信者達によって、磔刑たっけいにされ、罪を清めた後に天に帰すとか言って・・・その後は私も知りません」

「君、よく帰ってこれたね」

部下が大変申し訳無さそうにする。

「えぇ、なんとか・・・。怖くて途中から逃げ出してしまいました。申し訳ありません」

そんな部下を他所に教会での惨劇の報告に黙って内心引いていた。

「下がっていいよ。今日はゆっくりしておいで」

「ありがとうございます。そうだ、ピエロ様、こちらを」

部下が写真を一枚渡す。

「これは!!」と受け取った写真に思わず目を見開く。

「そちらが、本日の偵察結果です。この一枚以外、信者達に奪われてしまいました・・・」

ピエロの手の中の写真には葵をまつるシスターが写っていた。

「私の予想ではその写真が示す通り、その教団は元四天王葵の持つ私兵団組織の類かと思います。教会や宗教はブラフかと・・・」

その報告に眉をひそめるピエロ。

「元四天王葵の持つ・・・私兵団?」

「信者達が「一度でいいからお目にかかりたい」と言っておりましたので、あまり公にしたくないのか、教会に顔は出していないようです。きっと、そのシスターが葵に代わって指揮を取っているのかと思います」

ピエロが無表情でつぶやくように繰り返す。

「シスターが・・・指揮者・・・」

「・・・はい。これはあくまで私の予想です。しかし、彼女達が我々の仲間を天に帰した、という衝撃の事実があります!!」

たしかに、葵が私兵団を持っているというのなら魔王軍を裏切ったのもよくわかる。

国家転覆的な、下剋上に似たことだったのかもしれない。

魔王討伐にはリガトーニとリリウムの一族の生き残りが絡んでいるのは知っているが、この私兵団に混じったのか、はたまた隊員の1人なのか。

考察しているとよくわからなくなり、一つ浮かんだ疑問をぶつける。

「もう一度言うけど、よく戻ってこれたね」

そのねぎらいに、逃げ延びて来たことを思い出してのトラウマなのか、冷や汗を大量にかき始めた。

そんな様子の部下にピエロがまたしかめる。

終始理解し難そうではあったが、ついにはため息を一つ吐いて背もたれにもたれかかり、部下に下がるよう伝えた。

「ハァ・・・まぁ、いいよ。ご苦労様」

「失礼致します」

そして、一礼をして部下が下がっていった。

「この教会に関しては、いつか調べるとして、当分は関わらないでおこう。何にせよ、カルト集団だ」

科学の世界の巨大裏組織の一つ、biancoの幹部の額から一筋の冷や汗が垂れた。


後日、rossoメリリーシャ拠点。

「兄貴兄貴!ベット兄貴!」

「メリリーシャの教会で元四天王の葵が祀られてるって!見に行こうよ!」

いつものようにチェルヴェッロとコルポの兄弟がどこから得たのか情報を持ってベットを誘いに来た。

「その教会はいい。行きたきゃお前らで行け」

そう突き放された兄弟は腕組みして頬を膨らませて拗ねた様子で言い返す。

「ちっ!ノリ悪いの!」

「いいよ、俺らだけで手柄立てようぜ!」

その後、この兄弟はしばらく姿を消したという。

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