話し合い
その夜、葵と小麦は皆が寝静まった頃に、大使館を抜け出して離れた所でいつものように話し合う。
「昼の件、そろそろどこかの組織が俺たちの様な魔王軍の生き残りを探しに動き出したと言うことだろうな」
「あいつはキールと名乗っていた。俺の予想だが、エピスキャラバンで俺らを監視していた奴らの仲間だろう」
小麦の話に、葵が顎に手を当てて考える。
「だが、何故小麦を狙うんだ?俺は魔王軍の時と全く同じ姿だが、小麦は姿だけじゃなく、名前まで変わった。更に言うと、世間的には死亡扱いをされているから、一番狙われにくいはずなのに・・・」
葵の疑問に、少しの間黙ってから口を開く。
「うどんだった頃の俺の全盛期の姿と瓜二つだからだろうか?今は何とも言えないが、その内葵も狙われ始める。気をつけろ」
小麦も腕を組んで葵に注意を促した。
「俺たちが組織の話をした時のマタリの反応は、正直言って微妙だったな・・・」
「あぁ、だけどまだ油断は禁物だ。注意をしておいた方がいい」
葵に頷いて返事をする。
「今日はそろそろ帰ろう。エディブルと違って、人が多いからな」
「そうだな。どこで誰に見られているかもわからんし、今まで以上に神経質にならないとな」
葵が小麦の提案に頷いてから2人して動き出した。
大使館に戻ると、ディンブラが真っ暗なリビングで、ソファに座ってこちらを見ていた。
小麦が電気をつけると腕組みをしながら、やっと口を開いた。
「お帰り。こんな夜中に2人でおでかけなんてして、どうしたの?」
葵と小麦が黙っている。
「君達は2人でこそこそと話し合うのが随分好きみたいだね。エディブルでもよく、夜中に外で話し合っていたよね」
葵が表情を変えずにディンブラに返した。
「知ってたんだな。いつから気づいたんだ?」
「初めからだよ。君たちの今までのアイコンタクトも全部ね」
小麦が眉を顰める。
「俺たちの会話を知っててわざと泳がせたのか?」
「そうだよ。内容だって知ってる」と言ってネスリングの【ひみつのバッチ】を見せた。
ネスリング【ひみつのバッチ】
ノーティーエッグズ【おはなしバッチ】をロマが改造し、よりコンパクトに、より鮮明に聞こえるようにした。
ロマは大使たちの会話の盗聴によく使って遊んでいる。
「因みに、君たちが疑って止まないマタリは白いプルチネッラじゃないよ」
「証拠は?」
ディンブラの言葉に対して間髪入れずに葵が聞いた。
「君たちの言う通り、魔王と戦っている時に現地に白いプルチネッラがいたのなら、マタリはずっとメリリーシャで僕や大使達といた。パーティと共に葵くんが帰ってくるまで外には出ていない。つまりアリバイがあるってこと」
ディンブラが立ち上がる。
「それで、僕から言わす?それとも、自分達から言う?」
2人が黙り、ディンブラと睨み合う。
「ディンブラ、俺たちはお前を巻き込みたくない」
更に強く小麦を睨んだ。
「知っての通り、今俺たちはあらゆる組織から狙われている。命を落とす危険だってある」
葵の言葉を聞いても何も言わず、続きを待った。
「ディンブラには恩を感じているんだ!だからこそ、巻き込みたくない!分かってくれ!」
小麦の目の前まで歩き、その体を精一杯押した。
「僕をバカにするな!!」
その行動と言葉に小麦も葵も唖然とする。
「そりゃ、君たちより戦闘能力は低いよ!だけど、僕には人脈がある!それはココや花園だけじゃない!科学の世界のrossoともbiancoとも繋がりがあるんだ!魔王軍という組織が無くなった以上、大組織の人脈は必要だろ!!」
そして、小麦の胸元を掴んで引寄せた。
「僕は!君たちの仲間だ!共に暮らす家族だ!二度と忘れるな!!」
ディンブラは真剣な目を向けて怒っていた。




