表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
43/107

教会のお手伝い初日

手錠をかけられた小麦と共に裏口から出ると、キールがニヤリと不適に笑って口を開いた。

「悪いが、あのシスターは我々の証拠隠滅の為に消させてもらうよ」

しかし、予想に反して小麦は冷静に微笑んでいる。

「やってみろよ。できるもんならな」

その笑顔に不信感を覚えながら睨んでいると、小麦はまた続けた。

「俺がさっきからシスターを止めてたのはシスターを守るためじゃない。シスターの暴走を止めるためだよ」

その後、教会から大きな音が聞こえてきた。

小麦が振り返って教会に戻る。

「止まれ!止まらないと撃つぞ!」と言ってキールが拳銃を小麦に向けた。

「まぁ、待てよ。心配じゃないのか?自分の仲間が」

キールが小麦に銃を突きつけたまま中をのぞきに行くと、教会の様子に愕然がくぜんとした。

仲間が軒並のきなみ倒れていて、何ならその内の1人はシスターにマウントポジションを取られて聖書の角で殴られている最中ではないか!

「やだ!教会が汚れちゃった!せっかく小麦がピカピカにしてくれたのに!!」

それからシスターが慌てて床を拭き始める。

「取れるかな?早く小麦を返してもらって、お手伝いしてもらわないと!午後のミサが始まっちゃうわ!!」

キールがそんなシスターをただただ口を開けて見ていた。

「ほら、言わんこっちゃない」

手錠を引きちぎる際に、キールに裏拳をかます。

気絶したキールを担いでシスターの元に行った。

「ただいま」

「小麦!!」とシスターが嬉しそうに近寄った。

「派手にやったな。無事で何より!」

「教会を守るのが私達、聖女の役目なのよ!負けるわけ無いじゃない!」

シスターは誇らし気に胸を叩いているが、そんな彼女に多少恐怖を覚える。

「は、はは!・・・サイコパス気味だけど・・・まぁ、いっか」

「何か言った?」と聞かれてすぐに首を軽く横に振って否定した。

「いや、何も!・・・掃除しよう!ミサの時間なんてあっという間に来るぞ!」

「そうね!早く終わらせましょう!」


そして午後のミサの時間。

小麦は参列せず裏にいた。

ぞろぞろとまた女子が集まる中に、今回は入れたようでジャトロファとソルガムも混じっている。

今日はいつもと違う祭壇を見ながらみんなが話し合い、特に騒がしい。

シスターが入場すると、場が静まった。

「皆さん、午後のお祈りにお越し頂き感謝致します」

一礼すると、祭壇には磔刑たっけいにされたキールとその部下が数人見せしめにされていた。

シスターが祭壇に振り返り両手を挙げる。

「皆さん、この者達は神聖なこの教会で暴れただけでなく、己の血で汚しました!!」

会場が一気にざわつく。

「何てことなの!?」

「この不届き者!!」

中には光を足元に照らしてルミノール反応(※光を照らすと拭き取られたりして見えない血痕が光ること。主に警察が事件現場で行っている)を見る者までいた。

本当に科学にうとい世界なのだろうか?

シスターが皆にまた振り向き、手で制して場を鎮める。

「しかし、罪を憎んで人を憎まず。悪いのは罪であり、この方達を憎むべきではないのです。ですから、これからこの者達の罪を清めて差し上げようと思います」

すると、一斉にみんなが声を上げて賛成した。

「そうしましょう!」

「そうして差し上げましょう!!」

「神の名の元に!!」

会場が一層盛り上がる中、シスターがニコッと微笑んだ。


「てなことがあってさ!」

小麦は夜、大使館に帰って今日の話を早速みんなにしていた。

「は!?何それ?」

「ホラー映画か何か?」

「勿論、フィクションだよね?」

アッサム、パトロック、ダージリンが戸惑う。

「ノンフィクションだよ!実録、実録!!」

その言葉だけでその場にいた全員を震え上がらせるには十分である。

「それで、その磔刑たっけいにされた人達、どうなったの?」

ディンブラが聞くが、小麦は肩をすくめて答える。

「さぁ・・・?何か天に帰すとか言ってたけど・・・。関わると俺も天に帰されそうだろ?だからひたすら息を潜めてたんだよ」

小麦は先程の展開がわずらわしいからということだけでなく、シンプルに震えて裏にひそんでいたのだ。

「それが正式な教会のお手伝い初日って、濃いね・・・」

リントンが苦笑いした。

「やばいな。女子に囲まれてんのになんにも羨ましくない・・・」

流石のマタリでさえ引いている。

「マタリなら、理想的な囲まれ方とかした事ありそうだな!」

葵がいたずらっぽく笑ってマタリを見た。

「バカ、女の子に囲まれたらそれはもう修羅場だっての。というか、お前の信者がカルト集団化してるんだよ!」

「知るかよ。俺の関与してない事だ!むしろ俺も写真使われてるわ祀り上げられてるわで被害者側だよ!」

葵が表情を歪めて嫌そうな顔をする。

「シスターのサイコパス具合も、葵くんの信者カルト説も怖過ぎて薄れてるけど、その小麦をさらいに来た人達も怖いですね・・・」

「そうだよ!気をつけて!」

パトロックとダージリンが小麦の心配をした。

「そうだな。今回はシスター達が怖すぎて、捕まえたあいつらから何も聞き出せなかったのが残念だけど・・・」

「やめときなよ!どこぞの悪人より、我が身が大事だよ!」

リントンが小麦の説得にかかる。

「だけど、本当にどこの組織なんだろな?」

葵の言葉に全員が黙った。

「俺を狙いに来たんだ。またいずれ来るだろ・・・」

そしてしばらく皆黙ってはいたが、同じことを考えていた。

『とは言え、あのカルト集団から奪ってまで聞き出したくはない・・・』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ