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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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略奪愛

ミサが終わる頃には小麦は背もたれに背を預け、手すりにひじを乗せてすっかり呆れた顔をしていた。

「それでは皆さん、今日も一日、良き日を!」

ミサが終了し、なかなか退場しない女子達が小麦をチラチラと見る。

「な、何だ?」

背もたれから背が離れて自然と背筋を伸ばして緊張する。

この万年非モテ部隊と名高い機動隊隊長の小麦。

たぶん一生分の女子からの視線を浴びたのではなかろうかと言うほどに見られる。

居心地の悪さを感じつつも、誰も退場しないから小麦も動き辛い。

耳を澄ましていると、ヒソヒソと会話が聞こえる。

「葵様のミサに男子が一人で・・・」

「信心深いのね!」

『あーあ、なんか葵の敬虔けいけんな信者になっちゃったよ・・・』と鼻からため息を吐く。

そして、衝撃的な一言を耳にする。

「きっと片思いをしているんだわ」

小麦はこの言葉が何を意味しているのかわからなかった。

そもそも誰と誰のことなのか全くわからない。

『片思い?・・・誰が?誰に?』

気まずさから無表情で祭壇を見つめて考える。

その視線の先の祭壇にはさっきまで葵の、よく言えばオリジナル写真、真実を伝えるのならば盗撮写真が飾られていたが、今はもう無い。

「手の届かない相手との恋!素敵!」

『ドラマチックな話だな』

まだ誰のことを話しているのかわからないし、わかろうともしない。

「ほら、見て!あんなにも熱心に葵様が飾られていた場所を見つめ続けている!」

「本当!もう写真が引き下げられて随分経つのに、あんなにも熱い視線を送り続けて・・・。健気けなげね!」

『あれ・・・?祭壇見てるって・・・俺のこと!?』

考えを巡らせるように視線も上部へと泳ぎ始める。

そして、不可解な難問に眉をひそめた。

「毎晩寝る前に葵様を想いながら寝ているのよ!このミサが楽しみだったはず!!」

『ちょっと待て!俺、今ゲイにされてる!?しかも相手が葵だと!!何なんだ、こいつら!葵をどういう目で見てんだ!?』

目を丸くしながら慌てて立ち上がると、皆が小麦を見ていた。

なんというか、この好奇心で見られた目が何かをこちらへと要求している。

いや、要求の内容はわかっている。

葵と小麦のラブロマンスだ。

それがコメディになるのか、シリアスになるのか、純愛なのか、否か、それは受け取り手それぞれにゆだねられるところ。

小麦を見る目の奥でまさに今、様々な想像がなされているのだった。

そこに奇跡的な展開が添えられる。

後方の扉が思い切り開く音が聞こえた。

その音に一斉に振り返ると、ビストートがズカズカと入ってきて真っ直ぐ小麦の所へと歩み寄る。

なんとなくそんなビストートに身構えてしまった小麦。

しかし、お構いなしに呼びかけてきた。

「おい、小麦!あんなエセ聖女なんか放っといて、ウチ来いよ!もうすぐお昼だから客が沢山来るんだよ!」

まさかの仕事のオファーだった。

「ビストート!でも、ロルロージュがいるはずだろ?」

そして小麦の腕を掴む。

「やっぱりお前じゃないと!ロルロージュだけじゃ心配でな!あいつもよく働いてはくれるんだけど・・・」

すると「きゃー!きゃー!」と聞こえる。

振り向くと女子達からの視線が熱い。

「何事だよ?凄い注目されてんな」

「略奪愛よ!」「素敵!」などと大衆から声が聞こえる。

「よくわからんが、俺は手の届かない葵に片思い中で、そんな俺の愛をビストートが奪いに来たていになってることだけはわかった」

「葵の信者頭ヤバイな」

全く包み隠さないビストート。

この中にも客はいるんだから多少はつつしんでいただきたいものである。

異変に気付いたシスターが礼拝堂に戻って来た。

「ビストート!!何をしてるの!!」

その叫び声にみんなが振り向くと、凄い剣幕で怒りを露わにしていた。

信者たちの中でここに三角関係が完成されたことは言うまでもない。

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