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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
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ミサ

エピスキャラバンの翌日、小麦は朝一から教会を訪れ、シスターに改めて挨拶をしていた。

「改めまして、今日からお世話になります、小麦です」

「この前はごめんなさい!急に用事ができてしまったの!でも、その間もしっかり掃除をしていてくれたお陰で、見違えるほどキレイになったわ!ありがとう!」

「頼りにしてるわ!こちらこそ、よろしくね!」と付け足し、にこやかに返してくれた。

それからさらにシスターが笑顔で話す。

「サンスベリアでの働きも聞いてるわよ!ビストートがわざわざ私に「教会のお手伝い期間もサンスベリアに譲ってほしい」ってお願いに来たくらいなんだから!彼が私に頭を下げに来るなんて本当に珍しいことなのよ!」

「ビストートがそんなことを・・・」

小麦が静かに嬉しそうにする。

当のサンスベリアにはあまりにもビストートがしつこかったので、ディンブラの指示でロルロージュが手伝いをしている。

きっと料理ができなくても、ホールスタッフくらいならできるのだろう。

「それじゃあ、今日もまたお掃除からお願いね!」

雑巾を渡されたので、隅々まで拭いて回る。

シスターが時間を置いて帰ってきた時には渡した雑巾がかなり黒くなっていた。

「わぁ・・・すごい!私も毎日掃除してるけど、結構汚れって残ってるものなのね。それにしても、小麦も丁寧な掃除をするわね!」

「昔からよく掃除はしてたからな!」

シスターが感心する。

「偉いわね!小麦って魔王軍の幹部じゃなかったっけ?」

小麦は胸を張ってシスターに返した。

「だからこそだよ!部下だけに雑用させる上司より、一緒にやる上司の方が苦労に共感しやすいし、言葉に説得力が生まれる!それに、一緒にやりながら会話すれば信頼関係も深まるんだ!できるだけ一緒に俺はやるようにしていたよ!ま、魔王軍の方針で地位に関係無く自分のことは自分でするんだけどな!」

懐かしそうに、どこか誇らしそうに答える。

「すごくいい上司ね!少し意外と言えば意外だけど、貴方らしいと言えば貴方らしいわ!」

シスターに褒められて小麦が照れた。

そんな小麦に微笑みながら言う。

「神様は全て見ているの。貴方の部下への愛情も、仕事熱心な所も、全てを見ていらっしゃるわ!いつか貴方の犯した罪も全て包み込んで下さるから、これからも頑張って!」

小麦から雑巾を受け取る。

「お掃除ありがとう!もうすぐ朝のお祈りが始まるから、好きな所に掛けてゆっくりしてて!お昼はビストートの所へ行きましょ!」

言われるがまま座っていると、扉が開いてたくさんの女子がぞろぞろと入ってきた。

あっという間に満席になる。

きゃっきゃっと話し合う男性とは異なる声に、春先の小鳥の会話のように全く鳴り止まない様に、肩身が狭くなる。

時折小麦を見て何かを話し合う者もいる。

『俺、本当にいていいの!?めちゃくちゃ帰りたい・・・』

たぶん小麦にとって今の時間がこのお手伝いの中で一番の苦痛となったことであろう。

小麦が唖然としながら座っていると、鐘の音と共にシスターが入ってきた。

シスターが祭壇前に立ち、一礼する。

「主の恵み、愛が皆さんと共に」

顔を上げ、持っていた額縁を飾ると女子達が騒ぎ出す。

小麦は飛び込んできた光景に思わず目を見開いてしまった。

そして横の女子を見るととろけたような表情で、頬は紅潮し、目がハートになっている。

さらには感嘆の吐息まで吐く者も。

「はぁ・・・いつ見てもうるわしい・・・」

「あぁ、一度でいい!本物にお目にかかりたいわ!!」

そう横でつぶやく女性達から小麦は何度かまばたきをしてから、また目をゆっくりと祭壇に戻した。

シスターがひざまずき、お祈りをする。

「主よ・・・」

『そうだ・・・。この聖女、同僚(葵)を奉っていたんだった・・・すっかり忘れてた・・・』

このちょいちょい忘れてしまう、うっかりな小麦。

周りを見るとあちこちで同じようにお祈りする女性達。

「てことはこいつらも同種か!!」

小麦が思わず立ち上がり、大きく声に出てしまった。

「お黙り、小麦!お祈りは始まっているのよ!!」

「ひぇ!あんなに優しかったシスターが豹変ひょうへんした!」

小麦がおびえながらも再び座る。

『しかし、最近の葵の記憶といえば、変態シスターズの片割れの記憶しかないぞ。葵ってこんなにも女子に奉られる程かっこよかったっけ?』

さらに、小麦の頭に今までのシスターとの会話が走馬灯の様に駆け巡る。

”いいのよ。神は全てを受け止めて許して下さるわ!人ではなく、罪が悪いの。改心したのなら、行動を慎めば良いわ!大事なのはこれからよ!よろしくね、小麦!”

”神様は全て見ているの。貴方の部下への愛情も、仕事熱心な所も、全てを見ていらっしゃるわ!いつか貴方の罪も包み込んで下さるから、これからも頑張って!”

次第に怒りがこみ上げて来る。

自然と右の拳に力が入り、小刻みに震えるほど握り込んでいた。

『あれもこれもシスターの口から出ていた神は葵のことだったのか!!あんな裏切り野郎なんかにう許しなんか無い!というか裏切り者のあいつが懺悔ざんげしろ!!』

魔王軍視点ではごもっともな意見である。

そして“神様は全てを見ている”という点。

たしかにそうなのである。

なぜなら、葵はライバルであり、魔王軍に入ってからずっと寮でも同じ部屋ですごしていたので、色々と互いに見ていた。

そしてそんな部下と気さくに接する小麦(当時うどん又はきしめん)を羨ましく見ていた。(【月桂樹の葉を編む】第3章第68〜71話参照)

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