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月桂樹の冠.  作者: 叶笑美
償い
32/106

サーカスのチケット

ニルギリが思い出してキャンディに渡した爬虫類展のチラシ。

これがダージリンにとっての不幸の始まりだった。

どうしても行くと言って聞かないキャンディに根負けしたアッサムだが、2人で車を出すのがもったいないと言い出し、ダージリンに白羽の矢が立ってしまった。

「僕も嫌だよ!ディンブラがいるんだぞ!!それにディンブラの虫だって世話をしないと!!死んだら僕が殺される!!」

嫌がるダージリンを車の中からキャンディが引っ張る。

「それなら僕らがやっておくから!!」

「安心して行きなよ!」

ルフナもニルギリも必死である。

「いいよ!僕がするから!!てか、この前2人で車出してたよね?葵くんとアッサムでメリリーシャ行ってなかった!?」

「う〜ん」と少しうざったそうにアッサムがうなる。

その隙にでも車から飛び出そうとするダージリンを、メリリーシャにトラウマを抱えたルフナとニルギリが無理に体を押して再び車に詰める。

「嫌だ!ディンブラの所に自ら行くなんて絶対嫌だよ!!」

「大丈夫だよ!何やかんやディンブラと仲良くしてるだろ?」

「よく一緒に餌用のコオロギとか取って来てくれるじゃないか!!」

もうメリリーシャに二度と行きなくないルフナとニルギリは出ようとするダージリンを無理矢理押し込むという攻防を続けるが、もはや水掛け論。

「あんなのただのパシリみたいなもんだよ!!1人よりは2人の方が効率良いから、いつも誘われてるだけだ!!」

「頼む!」

「乗ってって!!」

もう説得は諦め、お願いに入った。

「嫌だ!ディンブラのいない平和を享受きょうじゅさせてくれ!!」

ダージリンの本音は終始”ディンブラのいる所に行きたくない”だ。

そんな彼の言葉は周りの人々によってかき消される。

「決まりだ。覚悟を決めろ!」

キャンディがダージリンの首根っこを掴んで押さえる。

「行くぞー」とアッサムは嫌がるダージリンを他所に平然を車を出した。

「嫌だぁぁぁああああ!!」

ダージリンのこもった断末魔は花園をとおざかった。

ルフナとニルギリは胸に手を当てて目には涙を光らせ、ダージリンを送り出した。

「ごめん、ダージリン」

「君の犠牲は無駄にはしないよ」

いや、死んでない!


そんなこんなな経緯でこの3人はメリリーシャにやって来たのだった。

ほとんどキャンディのわがままである。

だが、怯えるダージリンとは違って、アッサムは移動は面倒だが、メリリーシャに来るのは花園には無い刺激があって楽しんでいた。

何より、葵と小麦という逸材が現れてしまってからというもの、花園の平和より刺激を求める心が勝ってしまう。

不機嫌なディンブラの肩を組んでアッサムが説得した。

「まあまあ、そんなに怯えさせてやるな!虫なら、ニルギリやルフナが世話してくれてるから安心しろよ!」

ディンブラがダージリンを横目で見る。

「ふん。まあいいよ」

アッサムに言われて不機嫌そうにそっぽを向く。

お許しを得てホッと胸を撫で下ろすダージリン。

アッサムがディンブラからチケットを受け取った。

「俺らも明日行くよ!」

「キャンディも?」

ディンブラが見ると、キャンディがうなずいた。

「展示会なら、まだまだやってるから」

「おい!とんぼ返りさせられた俺の苦労は何だ!?」

アッサムが睨むが、キャンディはそっぽを向く。

「でも、そうなると3人分チケット足りないの・・・」

キャメリアの言葉に「あー、なら残念だけど諦めるか」とアッサムがディンブラに返そうとしたら、小麦がチケットを渡した。

「それなら、俺と葵とロルロージュのを使えよ」

「えー!3人にも来て欲しい!!」

駄々をこねるシャロンを葵がなだめる。

「行くには行くけど、パーティと同じく裏舞台から見せてもらうってのはどうだ?俺らをパーティのメンバーだと言えば、向こうも人手が増えることに関して嫌な顔はしないだろう」

「金はやらんぞ」とアスタが睨むと、小麦に「いらねーよ」と返された。

「やったー!葵さんも小麦さんもロルロージュも、皆で頑張ろうね!」

「よろしくです!」

シャロンがロルロージュを抱きしめて喜ぶ。

ディンブラは目線を合わせる葵と小麦の2人を見ていた。


その夜、小麦と葵が大使館から少し離れた人気の無い広場のベンチに腰掛けていた。

「サーカスなんて人の集まる場所に行けば、何かしらの組織に俺たちの生死や所在を示す事になる」

「危なかったな。だが、逆も言える。人が集まる場所には情報も集まる。何か掴めるかもな。ところで、シスターの許可は下りたのか?」

周りに人の気配が近付いて来ないか、警戒しながら小さめの声での会話をしている。

葵の質問に、小麦は鼻で「ふんっ」と小さく笑ってから答えた。

「ああ、葵さまの言いつけだと言えば一発だったよ」

「お前!!」と葵が焦った様子で睨みつけると「冗談だよ!」と笑って怒りを抑えさせた。

明らかに不機嫌そうな葵は一旦腰を深く座る。

「魔王軍の時も人が多く集まるイベントにはどこかしらの組織の動きを探る為に動いていたからな。俺達の存在は隠しつつ、相手を探ろう」

「ま、このサーカスで白いプルチネッラが掴めるとは思ってないが、今どこの組織が俺たちの存在を把握していたり、取り込もうとしているのかくらいは見えるかもな」

小麦は手元のサーカス団のチラシを見ていた。

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