思い出されたチラシ
運良くヴァニーユという知人のツテで、高額報酬の依頼を受けることに成功したパーティは、早速大使館に帰った。
「と、いうわけで!俺らは明日からエピスキャラバンの裏方として働くんだ!」
アスタが鼻高々に胸を張る。
「はい、これ!」
その横からシャロンが出てきてみんなにチケットを配って回った。
「これは?」と受け取ったリントンがチケットを見ながら聞く。
それにはアスタ、チョコ、キャメリアが答える。
「明日の公演チケット!」
「ヴァニーユがくれたんだ!」
「是非見に来て!」
チケットを受け取ったマタリが苦笑いをした。
「でも、みんなは裏方だろ?」
「いいから、いいから!楽しいよ、きっと!」
シャロンがウキウキしながらマタリに言った。
そんなことを言いながら、このパーティはまだ誰もサーカスを見たことがない。
よくそこまで他人に推せたものだ。
「はい、ディンブラに葵さんに小麦さん!それとロルロージュも!!」
小麦がチケットを受け取る。
「明日か。行きたい気持ちはあるけど、シスターに聞いてみないとな・・・」
チラリと葵を見ると、葵も顰めていた。
「なぁ、それって俺達の分もあるの?」
突然、リビングのドアが開いたかと思えば、花園に帰ったはずのアッサム、キャンディ、それと追加でダージリンまで現れた。
「アッサム!」
「キャンディとダージリンもいるよ!!」
アスタとチョコが目を丸くする。
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」とリントンが聞く。
メンバーを見てマタリも質問した。
「ニルギリとルフナは?」
「代わりにダージリンがいますよ!」とパトロック。
ディンブラがダージリンをじっと見る。
そして、低めの声で話しかけた。
「おやおや、ダージリン。こんな所で会うなんて奇遇だね。僕の虫達に会うのが楽しみだなぁ」
あからさまに圧をかけた口調にダージリンが「うっ」と苦虫を噛んだように表情を一瞬歪ませ、それから怯え始める。
「ひぇ!」と悲鳴をあげてアッサムの後ろに隠れた。
「だから僕はいいって言ったのに!!」
今にも泣きそうになりながら抗議していた。
今から数日前のこと。
エディブルの花園に着いたアッサム達。
車での移動だったので到着は徒歩メインで時折シャロンの移動魔法を使ったディンブラたちの旅より遥かに早く着く。
外へのトラウマを植え付けられたルフナとニルギリは心底安心した顔をしながら車庫で車から下りた。
久しぶりに帰ったような気分になり、エディブルの花園に漂う綺麗な空気を、伸びをしながら深呼吸で肺に思い切り入れる。
「んーー!!」
「・・・っはぁぁぁ!!」
手を下げた際に腿に当たり、ニルギリがポケットに入れていた紙を思い出した。
「あ!そういえばコレ、キャンディに渡そうと思ってたんだった!」
ニルギリから受け取り、内容に血相を変えるキャンディ。
「世界の爬虫類展だと!?何故もっと早くに言わない!?」
「わ!そんな怒って言わないでよ!怖いよ!」
胸倉を掴まれていたが、ニルギリが突き放す。
距離をとって、手を前に突き出してキャンディに牽制したまま言い訳をする。
「帰る事に必死すぎて忘れてたんだよ!」
さらにルフナも加わってキャンディを宥める。
「そんなに怒らなくても。即売会じゃないんだよ?展示会だよ?」
しかし、そんな2人にキャンディが睨みつけた。
「2人は絵を買いにしか美術館へは行かないのか?」
「そんなことはないけど・・・」とルフナが怯む。
「同じことだ!美しいモノは個々の感性によれど、誰しも見たいと思うものだろ!!」
「はいはい」
必死すぎるキャンディにルフナが折れて呆れていると、音を聞きつけたダージリンが迎えにやって来た。
「お帰り!皆!」
いじめっ子のディンブラがいなくなってイキイキとするダージリン。
足取りもどこか軽そうだ。
「ダージリン!」
「ただいま!」
ダージリンの挨拶を聞くと、ニルギリもルフナもホッとしたように返事をした。
「おい、行くぞ、アッサム!」
突然の呼びかけに思わず大きな声が出る。
「は!?どこに?」
キャンディが目を丸くするアッサムに迫った。
「決まってるだろ!メリリーシャだ!!」
大真面目に言うキャンディにアッサムだって引けない。
何より面倒くさいのだ。
「嘘だろ?1日かけて帰ってきたばっかだぞ?それに、開催期間だってまだまだあるんだ!こんなとんぼ返りしなくてもいいだろ?」
アッサムも展示会のチラシを叩いて説得にかかる。
「ダメだ!今から行く!物販が売り切れるかもしれない!!」
爬虫類が絡むと、頑固になるキャンディに根負けする。
「あー、もう!しゃあねーな・・・。でも2人で車出すのも勿体ないな。ニルギリ、ルフナ、2人ももう一度行くか?」
2人が怯えて全力で首を横に振る。
「もういいよ!」
「絶対行かないから!!」
この2人の体験を知るので、頑なに拒むのは目に見えていたアッサムがため息を1つ吐いた。
「仕方ない。ダージリン、乗れ」
そう言って首根っこを掴んで車の後部座席に詰め込んだ。
「・・・え?」
驚いていると、反対側のドアからキャンディも乗り込んでくる。
「え?」とキャンディを見ていると、相手は何も気にせず前を向いていた。
「えぇーーー!?」
気づいたらキャンディにシートベルトを付けさせられていた。




